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「ん?美羽、何か作ったのかい?」




美羽を促して、リビングへ入ろうとした時




微かに鼻腔を擽るいい香りがした





「あ、はい、実は…。お礼にもならないですけど、キッチン借りて夕飯作ってみたんです。すみません、事後報告になっちゃって…」




「そんな事はいいさ。それよりも、美羽の手料理を食べられるなんて楽しみだな」




「そんなに期待しないで下さいよ?」




「ははっ、それは無理だよ。もう、期待してるからね」




「も〜、プレッシャーかけないで下さい〜」



美羽は、困った顔をして笑ってみせた






「ミケーレさん、本当の、本当に期待しないで下さいよー!?」




そう言って

声を少し荒げながら僅かな距離の廊下を先に歩く美羽の小さな背中が



とても愛おしく思えて










―――ずっと、このままで…いられたらいいのに…







ガラにもなくそんな事を思ったんだ
























〜美羽side〜






「ふぅ。ご馳走様でした」



ミケーレさんが箸を置き丁寧に手を合わせた





「本当に美味しかったですか…?うちのキッチンスタッフさんに料理だなんて、やっぱり無謀な事しちゃいましたよね」






本当…私ってマヌケだなぁ…作った後に気付くなんて





『美味しい、美味しい』ってミケーレさんは食べてくれたけど、ハンバーグは焦げちゃってたし…





「そんな事はないさ。美羽が僕の為に作ってくれたんだ。本当にどれも美味しかったよ」




そう言って、私の頭をワシャワシャと撫でた






あんな焦げたハンバーグも美味しいって言って、全部食べてくれた






こういう時、恭一さんなら、あからさまに不味そうな顔するよね。きっと…





ふふっ…


『どうしたら、こんなに焦がす事が出来るんですか?』



なんて、真顔で聞かれそう









「美羽?」



「………………」



「美羽!」




「…………あ、は、はいっ!」




「どうかしたのかい?」








私、今…恭一さんの事―――――………






「いえ。すいません、ボーッとしちゃいました。あ、私、珈琲淹れて来ますね!」




動揺した自分を見られたくなくて


探るような目をしたミケーレさんから逃れるようにキッチンへ逃げ込んだ
















「はぁーーー…」



ミケーレさんから見えない事を確認すると


私は、床にしゃがみ込んだ









恭一さん…



どうしてるかな?




あの日から連絡は一切ない





怒ってるよね?やっぱり…



もう、愛想尽かされたかもしれない






自分の事でいっぱいいっぱいでいたけど



無意識に恭一さんを思い出した心は、また複雑な感情を渦巻いていく






事実が分かったんだから、恭一さんに話せば…





けど…未遂だったとはいえ、こんな事になってしまった今……合わせる顔もない




私が軽はずみな行動をしたから、こんな事に…






きっとまた、呆れて軽蔑されちゃう






そしたら、別れ――――……








そこまで考えて、私はそれを打ち消すようにフルフルと首を横に振った









「美羽、大丈夫かい?僕も手伝おうか?」





リビングからミケーレさんの心配するような声が聞こえる




行かなくちゃ…




「大丈夫です。今、持って行きますから!」





そして、私は力なく立ち上がり、慌てて珈琲の仕度を始めた
















bkm



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