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「んっ…んん〜ッ……」
まだ覚めない朦朧とした目を擦りながら重い瞼を上げると
そこには、いつもと違う見慣れない空間
何故だろう…?
一瞬、考え込んでしまうものの、すぐに答えは見つかった
そっか…
あのままミケーレさん家に泊まったんだった……
サイドテーブルに置いてある時計に目をやると、時刻は5時を少し過ぎたところ
5時…?
朝の?夕方…?
窓には遮光カーテンがぴっちりと閉められていて、外の様子は分からない
私は、近くに置いてあった自分のバックから携帯を取り出した
「17時(5時)!?」
私、どんだけ寝てるの!?
確かに最近、ずっと寝不足だったけど…それにしたって……
あっ、ミケーレさんは…?
“僕はリビングで寝るから”
そう言って、ベッドを貸してくれたミケーレさんを探しにリビングへと向かった
「ミケーレさん?」
リビングへ続くドアをゆっくりと開け呼んでみたが、誰もいないようだった
「ミケーレさん…?」
シーンと静まり返った部屋に、無意識に呼ぶ声も小さくなる
中へ歩みを進めると、テーブルの上に一枚のメモ用紙が置かれているのに気が付いた
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美羽、おはよう。
気分はどうだい?
美羽の寝顔をずっと見ていられず名残惜しいが、仕事へ行って来るよ。
君は、二日間休みにしておいたからゆっくり休むといい。
キッチンにはパスタとサラダがあるから。
帰りは僕が送って行くから、ここで自由にくつろいで待っていておくれ。
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外国人が書いたとは思えない程、綺麗で達筆な字
ミケーレさんって何でも出来ちゃうんだな…
―――なんて、感心して手紙を眺めながら
その時、ある一つの考えが頭に浮かんだ―――――――…
〜ミケーレside〜
ふぅー
さすがに今日は、ちょっと疲れたな…
美羽を僕のベッドに寝かせ、自分もソファで横になったが、隣の部屋にいる美羽の事を想うとなかなか寝付けず、やっとウトウトし始めたのは朝方だったのだ
ははっ
まるで、初めて恋した少年のようだな…
そんな自分が可笑しくて
誰もいない夜道で1人、こっそりと苦笑いをする
家までの帰り道
美羽がいる…そう思うと、その足取りは軽かった
家の玄関を開けると、リビングから溢れる灯りが見えた
「あっ、お帰りなさい、ミケーレさん。お疲れ様でした」
パタパタと子供のように走って来た美羽が出迎えてくれた
「ただいま、美羽。遅くなってすまなかったね」
まるで、新婚夫婦の会話のようだな
本当にそうだったらどんなにいいだろう…
ふんわりと笑う彼女を見て、思わず口元が綻んだ
思った以上に元気そうだ
「いえ。そんなの全然…あの…その手……仕事出来たんですか?」
まだ腫れている右手に、途端に顔が曇る
「これくらい平気さ。左手もあるし、どうしても無理なところは琢磨が手伝ってくれたから」
「そうですか…。琢磨さんにも申し訳ない事を…」
「美羽…また、そうやって気にする…。君は心配ばかりし過ぎだよ。そんなに心配していると、その内ハゲてしまうよ?」
本当は、琢磨にこっぴどく怒られたが…それは内緒にしておこう……
「だって…。ハゲは嫌ですけど、心配はします」
「はは。でもきっと、ハゲた美羽も可愛いよ」
「もう、やだ。ミケーレさんったら!また、そんな冗談言って…」
「はははは」
本気で言ってるんだがな…
美羽の鈍さは筋金入りだ
時々、この気持ちを全部吐き出してしまいたい衝動にかられる
もし、言ったとしたら彼女はどんな顔をするだろう…
苦しむ顔、悲しむ顔だけはさせたくない
美羽には、いつでも幸せであって欲しいんだ
それだけが僕の願い
「さ、中に入ろうか?」
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