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「知りたければ教えてあげるよ…」
───あの日…何があったのか真相を聞く為、閉店後、奈生さんと会う約束をした
バックヤードで着替えを済ませ、ロッカーの内扉に付いている小さな鏡で結んでいた髪を下ろし、櫛で解かす
これから、何を聞かさせるのか…
緊張と不安が入り交じり、何だか胃がズキズキと痛かった
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「美羽、もう帰るのかい?」
待ち合わせ場所に向かおうと裏口から外へ出ようとした時
ミケーレさんに呼び止められた
「あ、はい」
「実は今から、琢磨と秋の新作の試作をするんだが、良かったら味見役をしてもらえないかな…?」
「あ…ミケーレさん、ごめんなさい。今日はこれから、人と会う約束をしてるんです」
「そうかい…それは残念だ。美羽が居れば、琢磨と2人きりでむさ苦しい空間で作業せずに済むかと思ったんだが…。それじゃぁ、気を付けて行くんだよ」
そう言うと、ミケーレさんはポンポンと私の頭を軽く叩いた
あんな事があってから、ミケーレさんがいつも以上に私を心配してくれてるのがよく分かる
本当…ミケーレさんには支えられっぱなしだな…私
「はい。ホントにすみません。味見出来なくて残念ですけど…お詫びに明日は、キッチンのお手伝いさせて下さい」
「いいのかい?じゃぁ、明日はやる気も百倍だ」
「今日もやる気出して下さいよ」
そこへ、後ろから琢磨さんの呆れた声が飛んできた
「ほらっ、油売ってないでさっさと始めますよ!」
琢磨さんがミケーレさんの後ろ襟を掴み引きずるようにして、キッチンへと引っ張って行く
「折角、美羽と愛の語らいをしていたのに、琢磨もヤボな事をするねぇ。美羽、明日楽しみにしてるよ。Ciao〜!!」
「…ったく、ミケーレさんは、語らい過ぎですから…―――じゃぁな、美羽。気を付けて帰れよ」
そして、2人の姿はキッチンへと消えていった
ふふふっ……何だかんだ言いながら、いいコンビだよね、あの2人
可笑しくて口元から笑みが溢れた
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奈生さんとの待ち合わせ場所は、大通りに面した24時間営業のファミレスだった
時間に遅れそうで小走りで先を急ぐ
すると、途中
公園の入り口付近にポツンと停めてある車に目が留まった
外灯しかない薄暗い闇の中にチカチカと浮かぶ赤いテールランプが、何とも不気味に見える
この辺、車なんてあんまり通らないのに…珍しいな…
少し違和感を感じつつも、急いでその車の脇を通り過ぎようとしたその時
車の助手席のウィンドウが下げられた
「お疲れ様、美羽ちゃん」
中から顔を出したのは、にっこりと笑う奈生さんだった
「奈生さん!?あれっ?待ち合わせ場所ってファミレスじゃ…」
「うん。そうなんだけど、よく考えたらアモーレからファミレスまで結構距離あるし、今日はたまたま車を持って来ていたから、迎えに来たんだ。さぁ、どうぞ。お姫様…」
「で、でも……」
「車だとファミレスまですぐそこだし、こんなとこで立ち話も何でしょ?ほら、早く…」
いいのかな…?
でも、ファミレスまでだし…
「じゃ、じゃぁ…お言葉に甘えて…」
奈生さんの言葉に少し躊躇いつつも、結局、私は助手席のドアを開け車へと乗り込んだ
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