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〜美羽side〜
背中にツゥ――……っと冷たい汗が一筋流れる
身体は凍りつくように冷たいのに、今にも全身から汗が噴き出しそうだ
ロッカーの扉を思いっ切り叩きつけられた時、反射的に閉じた目を恐る恐る開き、目線を上へと向ける
そこで目の合った恭一さんの表情は、ゾクッとする程冷たい…感情の持たない顔だった……
まるで金縛りにあったかのように、その表情から目を逸らすことが出来ない
仕事で怒る時とは比べ物にならない、全く質の違う表情
────この時、私は初めて、心底恭一さんを恐いと感じた…
「これは、そういう事だと理解していいのですか?」
いつもよりも一層低い声で恭一さんは尋ねる
「あ…あの………こ…れは……私も…よく分からなくて………」
何とか振り絞るように出した声に、恭一さんはピクッと眉根を寄せた
「分からない…?何故分からないんです?自分の事でしょう…」
「それは……そうなんです…けど………………」
言葉に詰まり、続きが声にならない
だって…私自身、どうしてこんな状態になっているのか分からない
─────昨日
奈生さんに家まで送ってもらった私は、まだ体のダルさが取れず、そのままベッドへ倒れるように寝てしまっていた
それが…今朝起きて、シャワーを浴びようと服を脱いだら、こんな状態になっていて………
全く記憶がない
私、もしかしたら奈生さんと……
あのお店で、意識のない間に何があったのか…
想像するだけでも恐ろしかった
だから、恭一さんからの沢山の不在着信にもメールにも返事をする事が出来なかったのだ
「何も言わないという事は、認めるという事なのですね?」
何て説明したらいいのか分からず俯き黙り込んでしまった私に、呆れたように溜め息をつきながら前髪を掻きあげた恭一さん
「フゥー……では、もういいです。その印が全てを物語っているということですね…」
感情を押さえ込んでいる…抑揚のない、吐き捨てるような口調で言うと、叩きつけられたままになっていた拳をスッと離し、バックヤードから出て行ってしまった……
誤解だと言いたいのに言い切れない自分
私が好きなのは、恭一さんだけなのに……
蛇に睨まれた蛙のようにその場から一歩も動くことが出来ず
恭一さんが出て行く後ろ姿をボンヤリと眺めながら、ロッカーからずり落ちるようにしてしゃがみ込むのだった――――――――…
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