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奈生さんに連れてこられたそのお店は、大人の為の隠れ家空間…といったような、割りとこじんまりした…けれど、風格の漂う和食懐石のお店だった
奈生さんは、ここのオーナーさんと知り合いらしく、私達は特別用の個室に通された
個室の照明は間接照明を使い、明るすぎず、暗すぎず…料理の色彩の映え具合も計算されたような、完璧な空間だった
「…おいしい……私、こんなに美味しい料理初めて食べました」
内装も然る事ながら、今まで食べたことのない料理の数々に思わず顔が綻ぶ
「やっと笑ってくれた。美羽ちゃん…今日、仕事中もそうだったけど、ずっと無理してただろ?」
「あ……すいません。やっぱり顔に出てましたよね…」
もしかして…それで、今日誘ってくれたのかな?
「いや、別に謝る事なんてないよ。長い人生、落ち込む事だってあるさ。ただ…」
「ただ…?」
向かいの席に座っている奈生さんはスッと手を伸ばし、テーブルの上の私の手に自分の手をそっと重ねてきた
驚いて、思わず手を引っ込めようとすると、ギュッと力を込めて握られる
「美羽ちゃんには笑顔の方が似合うよ。俺は、美羽ちゃんの笑った顔が好きなんだけどな…」
真っ直ぐに私を見つめる奈生さんの顔
思いがけない台詞に顔が一気に熱くなる
「やっ、やだ///奈生さん、何言ってるんですか!」
火照った顔を冷ましたくて、頼んだお酒をクイッと喉に流し込む
「ハハッ、彼氏がいる美羽ちゃんには通じないか!?」
「…奈生さん、知ってるんですか?」
「いや…でも、こんなに可愛い美羽ちゃんに男がいないはずないなーって。それに、こんな風に落ち込むなんて、きっと彼氏の事なんじゃないか…っていう俺の勝手な想像…――――あ…ごめん、こんな話して…ほら、まだまだ料理は沢山あるから、食べよう!落ち込んだ時は、旨いもの食べて呑むのが一番!!」
気付いていても必要以上に聞かず、そこに居てくれる奈生さん
今日、来て良かったな…
よし!!
今日は、奈生さんの言う通り沢山食べよう!!
―――……ちゃん……
―――……美羽ちゃん?――――…
誰か呼んでる…
誰?
…奈生さん?
あれ…?
私、奈生さんとご飯食べて……呑んで…
ダメだ……
瞼は上がらないし、体も鉛のように重い……
………こんな所で寝たら…奈生さんに…迷わ…く………
そこで私の意識はプツリと途切れた―――――――――………
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