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〜美羽side〜
帰り支度を終え、裏口から店を出る
辺りはもうすっかり暗くなり、空には輝き一つない漆黒の闇が広がっていた
今日は月見えないんだ…
暗闇の中で強く光り輝く月が見れたら、少し元気をもらえるような気がしたのにな…
昨日の夜遅く、恭一さんからメールが届いた
【今日は、来て頂いてありがとうございました。
帰り際、様子がおかしかったように見えましたが、何かあったのですか?もし、あるのなら何でも話して下さい】
恭一さんからのメールは、いつもこんな感じ
分かってるのに…
せっかく、私を心配して送ってきてくれたのに…
今の私には、このメールが酷く事務的なモノに思えてならなかった
恭一さん…私が欲しい言葉はもっと――――――………
――――はぁ…帰ろう
「美羽ちゃん!!」
溜め息をひとつ吐き、駅に向かって歩き出そうとしたその時
どこからか、私を呼ぶ声が聞こえた
「奈生さん!?どうしたんですか?…あっ、もしかして忘れ物!?」
「――――ハァ…ハァ…
やっぱり…ハァ、あった?あ〜、良かったぁ〜…」
相当走ったのか、息も切れ切れに話す奈生さん
「はい。薄茶色の封筒ですよね?じゃぁ、今、取ってきます」
「はい、どうぞ」
私は保管していたバックヤードに戻り、その封筒を奈生さんに手渡した
「ほんっっっと、ありがと!!!これ、明日の会議で絶対必要な書類でさ〜
もー、無くしたと思って必死であちこち探してたんだよ!」
封筒の中身を確認すると、ホッとしたように安堵の溜め息を吐く
「…あのさ、それでお礼と言っちゃなんだけど、良かったら今から飯でも食いに行かない?」
「えっ、あの…でも、ただ忘れ物をお店で預かってただけで、私は何もしていませんし…」
「あ〜、ごめん。“お礼に”なんて言ったら逆に気使うよね…。じゃぁ、友達として!!俺、書類探すのに必死で飯食ってなくて、腹ペコでさ…友達として、俺の飯に付き合ってくれない?…これならどうかな?」
顔の前で書類を挟んで両手を合わせ、お願いするようなポーズをとりながら片目をチラッと開け、私を覗き見する奈生さん
「プッ///…はい。じゃぁ、お言葉に甘えてご一緒させて下さい」
その姿は、普段お店でみせる完璧な姿とは違って、ちょっと幼く見えた
それが何だかおかしくって、一瞬考えたものの、私は頷いていた
「本当に!?やった〜!!ありがとう、美羽ちゃん!これで1人寂しくコンビニ弁当にならずに済むよ」
――――――でも…本当は、他にも理由はあったんだ
昨日の事―――――……
思い出したくないのに、あれからずっと頭から離れてくれない
あの人が恭一さんに腕を絡ませてる場面が、何度も何度も繰り返し再生される
何も起きない…って恭一さんを信じてる
けど…
もしも…
どうしようもない漠然とした不安が、胸を黒く覆っていく
今、1人ではいたくなかった
1人になると、私、どんどん嫌な女になりそうだ
――――だから…この奈生さんからの突然の誘いが、今の私には“ちょうど良かった”んだ…
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