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あ…お会計しなくちゃ…
ハッとしたようにバックを手に取り伝票を持つと、会計レジ゙へと向かう
まるで見せつけるような光景を目の当たりにし、私の心は激しく動揺していたけれど
店を出るまでは、この動揺を悟られてはいけない…と必死にこらえた
これは私の意地だ
そんな光景を見せられたって
例えあなたが、恭一さんを好きだとしたって
全然関係ないし、平気なんだ!という自分を誇示したかった
―――――大丈夫…大丈夫…
汗ばむ手をギュッと握りしめる
緊張した面持ちでレジに行くと、そこには恭一さんが立っていた
一瞬、作っていた私の顔が崩れそうになる
「少し暗くなってきたので、気を付けて帰るんですよ。なるべく、人通りの多い明るい道を通るようにして…」
レジを操作しながら恭一さんが言った
―――――けど…
それはまるで……
「何だか、恭一さん……保護者みたいですね…――――じゃぁ、私帰ります。無理しないで、お仕事頑張って下さい」
今出来る精一杯の笑顔を作り、店を後にした
―――――
今、自分で言った言葉に自分で傷ついた
「ホント、保護者みたい…」
情けない消え入りそうな声が出てしまう
―――――ブルッ…
うぅ〜っ、寒い…
最近、肌寒くなってきたな…早く帰ろう…
不安を振り払うように、駅へ向かって歩き出そうとした時
聞きたくない声が私を呼び止めた
「ねぇ、あなたって恭一さんの彼女なんでしょ?」
「はい。そうですけど…何か?」
微かに震える声を押さえ、毅然と返事をする
「私…あなたから恭一さんを奪ってみせるわ」
「なっ…」
彼女の唐突な発言に言葉を失った
「あなたも自分より私の方が、恭一さんに相応しいと思わない?恭一さん…最近、“彼女と別れようと思ってる”なんて言ってたわよ。“私に惹かれ始めてる”って…」
そう言って
私を頭のてっぺんから足のつま先まで舐め回すように見ると、彼女は勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべた
「うそっ!恭一さんは、そんな事言う人じゃありません!!私は、恭一さんを信じてますから」
彼女の言葉に憤慨した私はそれだけ言うと、駅に向かって全力で走り出したのだった
―――――ハァ…ハァ…
苦しい…
苦しい…
恭一さんがそんな事言うような人じゃないって、私が一番よく分かってる
あの人が一方的に想いを寄せていて、あんな嘘をついているだけだ
分かってる……
分かってる…けど……
今、一番…恭一さんの近くにいるのは彼女だ
私は会うことさえ、ままならない
もし、これから恭一さんが彼女を好きになったとしたら…?
嫌な想像が脳裏を掠める
大丈…夫だよね?
恭一さん……
私の心は、大きな大きな不安に支配され、揺れるのだった―――――…
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