08
ホントに来ちゃった…
……大丈夫かな?
やっぱり迷惑かな…?
でも、せっかく来たんだし…
せめて、恭一さんにメールくらいしておけば良かったかなぁ…
突然行って驚かそうと思ってたけど、失敗しちゃったかも…
入り口近くにある電柱の影からチラチラと店内を覗き見しているこの状況―――――…
不審者以外の何者でもない
そんな不審な行動をしていた私に、聞き覚えのある声が掛けられる
「……もしかして、美羽さん?」
恐る恐る振り向くと、今からシフトに入るのか私服姿の千秋君が訝しげな表情で立っていた
「うわっ!…ちっ、千秋君!!」
「中に入らないの?そんな所に居たんじゃ、まるで変質者みたいだよ。チーフに会いに来たんでしょ?
さぁ、どうぞ。お客様…」
呆然とする私を、ドアを開け左手でそっとエスコートするように中へ招き入れてくれる千秋君
「俺は裏口から入るから、他のスタッフに案内してもらって?」
そう言い残すと、千秋君は裏口へと回って行った
―――――うぅ…
千秋君てホントに鋭いなぁ…。私がバレバレ過ぎなのかな?
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
ぼんやりと千秋君の後ろ姿を眺めていると、店内から突然声を掛けられ慌てて振り向く
すると
そこには、長身で目鼻立ちの綺麗な女性スタッフが微笑んでいた
「はっ、はい!」
余りの美人さんに、思わず上擦った声が出てしまう
「かしこまりました。では、お席へご案内致します」
うわ〜…///
すっごく綺麗な人…葉月かおりみたい…
そのお姉さんに案内され、窓際の席へ座ると店内をぐるりと見渡す
黒を基調としたシックで落ち着いた雰囲気の空間
一見、敷居が高そうな気がしてしまうが、然り気無い装飾や置物がアクセントとなり、私なんかが居ても浮いていないように感じる
さすが、妙子さん。センスあるなぁ…
アモーレとは全くイメージが違うけど、こういうのも素敵だな…
そこへ、着替えを終えパリッとした白いシャツに袖を通した千秋君が、水とお絞りを運んできてくれた
「ありがと、千秋君。あの…さっきから恭一さんの姿が見えないけど…」
「あ、ごめん。今、チーフ、ディシャップに入ってるんだ。一応、チーフには美羽さんが来ている事は伝えたんだけど…」
「そんな、千秋君が謝ることじゃないよ。わざわざ、ありがと。私の事は気にしないで?どういうお店なのか見られただけでも来て良かったし、千秋君の顔も久し振りに見れて嬉しいよ」
「…そっか。俺なんかで良かったらいくらでも見ていってよ。ところで、ご注文は何になさいますか?」
千秋君は、急にかしこまった口調で話し出す
「じゃぁ、モカで…」
「はい、かしこまりました。只今、お作り致しますので、少々お待ち下さいませ」
ペコッと下げた頭を上げた千秋君と目が合うと、何だか可笑しくってお互いに笑い合った
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