手紙(1/1P)
*某サークルお題
「絶対、家に帰ってから開けてね!」
突然、貰った美羽からの手紙。
そう言われたから、気にはなりつつ家に持ち帰って封を切った。
アイツらしい文面に口元を緩ませた時、ハラリ…と一枚の真っ白な便箋が落ちる―――――――…
【ん…?】
鉛筆書きで書き綴ってあった小さな文字は
【返信はこちらへ】
なっ///
手紙書けっつーのか?この俺に!?
こんなの書いてられっか!
自慢じゃねぇけど、山のようにもらった事はあっても、書いた事なんて一度たりともねぇ!
けど…
書かなかったらアイツ、ブーたれんだろうな…。
数日後、隼人宅
「ほらよ」
「わぁ///書いてきてくれたの?嬉しい♪」
「ちょっ、待てって!今、開けんなっ…」
って、言ってるそばから、嬉しそうに早速封筒を開く美羽。
「何これ…、たったこれだけ?」
けれど、便箋に目を走らせた美羽の頬は、さき程までの表情とは打って変わり、みるみるうちにフグのように膨らんでいく。
「たった一行だけだなんて有り得ない!!」
そう。俺が書いた返事は――――…
【こんな紙に書き切れねぇ】
それだけ。
「お前が手紙の最後に【私のどこが好き?500字以内で書いてね★】なんて書くからだろ!?そもそも、500字以内って何だよ!作文かっつーの!」
「えぇぇ―――っ!!!書き切れない程、好きなトコいっぱいあるのは分かるけどさ、そこを考えて書いて欲しいってのが乙女心でしょ〜?もう真面目に書いてよ!」
「なっ///そんなの知るかっ!大体、俺が生まれて初めて書いてやった手紙なんだぞ!?それだけでも有難いと思えよな!」
「もぉ〜、隼人は相変わらず俺様なんだから…。じゃぁ、言葉で言って?それで、許してあげるから♪――――私のどこが好き?」
至極満面の笑みで、上目遣いに尋ねてくる美羽。
その顔は、星屑を散りばめたように期待でキラキラしていて、そのプレッシャーに思わず目を逸らしてしまう。
「なっ、ななな、何で今、そんな事言わなきゃなんねーんだよっ///」
「ダ〜メ!ちゃんと言ってよ!」
一体、何なんだ!?
美羽がジリジリと俺に詰め寄ってくる。
「どうしたんだよ?らしくねぇぞ!?」
いつもの美羽なら、こんなにしつこく尋ねたりしないのに…。
「だって…隼人って、普段そういう事全然言ってくれないじゃない…。たまには言葉にしてくれないと、私だって不安になるんだよ?」
明るかった表情は途端に曇り始めて、みるみるうちに目の縁から大きな粒が零れ落ちてしまいそうになっている。
「お、おい、んな顔すんなよ」
こういう時、どうしていいのか分からない。
ヘタに何か言っても、嘘っぽくなっちまう気がして…言葉に詰まる。
けれど、美羽のそんな表情は見てられなくて、それを拭い去るようにゴシゴシと乱暴に擦った。
「う〜、止めてよ〜。メイク落ちちゃう…」
「別にメイクなんかしてなくたっていいだろ?」
「それ…してもしなくても同じって事?酷いよ、隼人…」
「だぁぁぁぁ!!お前、バカか!?そういう意味じゃねぇよ!!」
伝わらないって、こんなにもどかしかったか…?
「だって…分かんない!!ちゃんと言ってくれなきゃ分かんない!バカって言わないでよ、バカ!!」
半ばキレ気味に大声を上げた美羽は、とうとう堪え切れず、その歪んだ瞳からは大粒の雫が零れ落ちた――――――…
泣かせたいわけじゃないんだ。
悲しませたいわけじゃない。
「あークソッ!!だぁ〜か〜ら〜、ス、スッピンのが…かっ…か……可愛い…ったんだよっ///」
けれど、やっぱりどうにも素直に伝えられない。
「だから、もう泣くな///」
「へへっ///うん…」
現金な奴だ…途端に泣き笑いしてやがる。
「あのよー…俺、確かに手紙もそうだし、言葉にすんのもさ…苦手だけど……別なモノで伝えてたの…お前、気付いてないわけ?」
「ええっ?!だって、他にある…?」
「はぁーっ。やっぱお前、バカだな?」
「もぉ!だから、バカって言わなっ―――んんっ…ン……」
噛み付いてきた美羽の頭を引き寄せて、俺は強引にその唇を塞いだ。
「煩いからもう黙れ…」
そのまま、顔を真っ赤に染めた美羽をソファへ押し倒す。
「いつも体で教えてんのに分かんねぇのかよ?」
「っ、わ、分かんないっ…」
「なら、今日は分かるまでとことん教えてやるよ。何回でもな…」
書くのが苦手、言葉にするのが苦手…なんつったけど、
あの手紙…本当は書けなかったんだ。
どんな言葉を並べても
どんな言葉を書き綴っても
この気持ちを伝えるには安っぽ過ぎて。
俺がお前を、どんだけ想ってるか…
俺はこんな伝え方しか出来ねぇんだよ――――……
だから、手紙を書くなんて事、もう一生ないだろうな…。
俺からの最初で最後の短い手紙。
大事にしろよ?
プレミアもんなんだからなっ!!
-fin-
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