手紙:一条(1/1P)
久々のオフ
目が覚めたら、昼の12時をとっくに過ぎとって
大きな欠伸を1つし、頭を掻きながらリビングへ行くと
テーブルの上には、昨日泊まっていった美羽ちゃんが用意してくれた朝ご飯と
一枚のメモが置かれていた
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おはようございます。
朝ご飯作ったので、良かったら食べて下さいね。
気持ち良さそうに寝ているので、起こさずに行きます。
大好きな慎之介さんへ
美羽
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何や…くすぐったくて、めっちゃ照れるな…///
“大好きな慎之介さん”
【一条さん 大好きです】
ふいに、あの日の…あの女の子を思い出した
元気にしとるやろか…?
芸人、一条慎之介の原点のあの子―――――――……
*
高校を無事に卒業した俺は、芸人になるべく上京しようと
相方の隆やんと共に、駅のホームに並んで立っとった
荷物は小さなバック1つ
何もいらん
1からのスタートや!
自分の力でてっぺんまで登ったる!!
「隆やん、やったろな!!」
「慎…お前、そないに意気込み過ぎとると、続かへんで?これからの道は、長く険しいんやからな」
「ヤる気出して何が悪いねん!!今日は記念すべき、俺らが上京する日やで?そりゃ、テンションも上がるやろ!」
「あぁ、ハイハイ。そやな〜」
「ちょっ、隆やん!!つれなさ過ぎるで〜」
「うっさいのぉ〜…って、どうでもえぇけど何でお前、荷物がそんなちっさなバック1つやねん!」
「フフッ…どでかい夢を持つ男に荷物はいらんのや♪」
「また、そないなアホなことゆうてからに…」
そんないつもと変わらへん調子で会話をしとった時
俺の目の前に“あのコ”が現れたんやった――――――……
「一条さん!!」
遠くから聞こえた声に振り返ると
そこには、背の小さな女の子
「…ハァ…ハァ……あのっ…一条さんが…今日…ハァ……上京するって…聞いて……ハァ、ハァ…あの…これ、読んで下さい!!」
ここまで走って来たのか、息も切れ切れになりながら頭を下げ、差し出してきたのは淡い桜色の封筒
強く握っていたせいか、所々皺になっとった
「――――それじゃぁ…」
「…あっ、ちょぉ、待って!」
慌てて呼び止めたけど、振り返ることなく走り去って行った“あのコ”
「ラブレターやな。今時、珍しいで?あないな子…」
“せやな…”
そう呟きながら、あの子が走り去って行った景色の先へ視線を向け
手元に残された手紙の封を開けた
中に入っていたのは、便箋一枚
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ずっと応援しています。
頑張って下さい。
一条さんが大好きです。
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少し丸字で書いてあるたった3行の短い手紙
顔も名前も知らん
こないな言い方したら失礼やけど
“どこにでもおる普通の子”
―――――でもな…何や、たったこれだけの事やったけど、めっちゃ心に響いたんや
たった3行に込められた想いに―――――……
あの時
名前も聞けへんかったし、封筒にも書いてへんかった
今となっては、どこの誰だか分からへんけど
この手紙のお陰で俺は、苦しい下積み時代も乗り越えられたんや……
今もどこかで見てくれとるやろか…?
元気でいるやろか…?
もう、結婚しとるんかな…?
“あのコ”に少しでも笑いを届けられとるとええな…
今でも大事に手紙はしまってある
俺にとって、原点に戻れる大事な大事な思い出や
―――――美羽ちゃん…
美羽ちゃん以外の子からのラブレター
これだけは許してな?
これが無ければ、ここに一条慎之介はおらんのやから……
-fin-
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