夏と海と君と
(2/2P)






「こんなとこで何してんだ?」




然り気無く、平常心を装い声を掛ける





砂浜に落ちた影に気付いた君は、すぐさま顔を上げ、眩しそうに目を細めた






「松田さん…」





「お?城作りか」





畑谷の手元には砂山があって、そこにはトンネルが掘られていた





俺はその横に並んでしゃがみ込む







「畑谷は泳がないのか?」






「今、順番で荷物番してるんです。しっかり、みんなの荷物守らないと!」






「その割には、随分真剣に城作りしてたな?」






「あ、バレました?」






「どこをどう見てもバレバレだろ」






「ふふふふ…」








この明るい天真さには、いつも元気を貰える





どんなに疲れていても、畑谷を見てると不思議と頑張れるんだよな







あぁ…夏の向日葵を思わせるその笑顔が、俺だけのモノならいいのに…








そう願わずにはいられない










「ここ…俺もいいか?」





「え…?」






「城作り…」






「あ…松田さんもしたくなったんだ?」







「はは…まぁな。よし!凄いの作るぞ、畑谷!!」







「ふふふふ…はーい!」








城作りなんて口実に決まってる






ただ…今、君を独り占めしたいだけなんだ





















「……やっぱり、松田さんって優しい上司ですね」





せっせと砂山を作る手を動かしながら、畑谷は嬉しそうに笑った







「どうして?」





「だって…本当は、私1人で荷物番させるのは可哀想だ…って思ってくれたんですよね?だから、こうして……」








喜んでいいのか、悪いのか…






いい上司でいるつもりなんてないんだけどな






君の目にはそう映るらしい








本当の俺は、横縞な気持ちだらけなのに…









「女子たちはみんな騒いでますよ?松田さんに抱かれたいって…」






「ブッ!」






急に畑谷が変な事を言ったせいで






「あ〜あ…崩れちゃいましたね」





掘っていたトンネルは貫通する事なく潰れてしまった







「おまっ、何言って///」





「だって本当ですよ。松田さん、すっごくモテるんですから」







その女子たちに、君は入っているのだろうか?







「や…けど、そういうのって好きな奴じゃなきゃ意味ないだろ」






そう…君じゃなきゃ……








「松田さん、いるんですか?そういう人…」







「……気になるか?」






気にしていて欲しい






願望にも似た想いが言葉になる








「え…」






「それは単なる好奇心?それとも…」





「あ、あの…松田さ……」







矢継ぎ早になってしまったからか、君は戸惑いの表情を浮かべていた








けれど、ここまで来たらもうブレーキなんて効かなくて








「教えてやるよ、俺の好きな奴…」







側に落ちていた枝を拾った俺は




砂の上に好きなその名前を書きなぞった













「嘘……私…?」






「……そう、お前」







その“畑谷”の文字の隣に、さらに書き加える










“好きだぁぁー!!”










「ぷっ…松田さん、ふざけてます?」






「いや、大真面目だぞ、俺は」







愛の告白なんて数年振りなんだ、照れ臭いんだよ






しかも、いい歳したおっさんがこんな若い娘に…







格好なんて付けていられない










「返事…聞かせてくれないか?」





手にしていた枝を君に差し出して、審判の時を待つ








俺の指先を見つめていた君は、静かにそれを受け取ると




俺がしたのと同じ様に砂地に手を動かし始めたのだった









“私……は……”






















「美羽ちゃ〜ん!次、交替だよ〜」






けれど、次の瞬間



信じられない様なまさかのお約束な展開







「い〜わ〜さ〜き〜」





「あ、松田さんも一緒だったんですね〜。あれ?2人して何書いてるんですか〜?」





何も知らないで覗こうとする岩崎に





「うわっ!馬鹿、見んな!!」




俺は慌てて愛の告白を消し去った








「ぶー!松田さんのケチ〜!」





「はぁ…何だか、どっと疲れが…」





「もう疲れてるんですか?そんなんじゃ、おっさんって言われますよ〜」






「うるさい!誰のせいだ、ったく…」





岩崎の子供染みた嫌がらせを相手にしながら、チラリと君に視線を向けると目が合って







“また…後で……”







大きく動いた唇は、そう言ってる様な気がした











眩しいくらいに照り付ける太陽





どこまでも澄み渡る真っ青な空





鼻腔を擽る潮の香りに、癒される波の音






俺の隣には君がいて…














生殺しの様なこの状況








長くなりそうな一日に、軽く目眩がした




















-fin-


bkm
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