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今でも、あの頃に戻れたならと、頑なに願ってしまうことは罪でしょうか…。
「上海…ですか?」
「あぁ。急だが明日、立つことになった」
「……どのくらい?」
「現時点では不明だが、最低でも2・3ヶ月はかかるだろうな。今回は少しばかり厄介な事件なんだ」
「2・3ヶ月…。あの、それって、どういう…」
「悪いがそれは話せない」
「…ですよね。守秘義務ですもんね」
「すまない。けど、心配しなくても大丈夫だ」
この上なく優しく、そして残酷に私を遮断するあなたのその微笑み。頭を撫でる大きな掌。
その身を案じながら待つだけの毎日は苦しくて、すがれる温もりを欲したの。
「気を付けて、行って来て下さい…ね」
「あぁ」
「食事もちゃんと摂って下さいよ」
「あぁ」
「誠二さん、仕事に夢中になると他が疎かになっちゃうから…」
「ふ、そうだな」
「……」
「いつも傍にいてやれなくてすまない」
「いえ。私は誠二さんが無事に帰って来てくれれば、それで…」
「美羽…」
「だから、無理だけはしないで下さいね?」
「……」
声にならない約束だった。
「美羽、今度帰ったら…その時は俺と…」
「…?」
「いや…何でもない。その時、改めて話す」
「そう、ですか…」
「それより、俺がいない間、腹出して寝るなよ?」
「寝ませんよ。子供じゃないんですから」
「はは。どーだか」
「……」
そんな2人よがりの戯れ言に、どうにも出来ない空白と孤独を知ってしまったの。
全ては弱い私のせい。
「誠二さん、どうか無事で…」
「あぁ。行ってくる」
祈るようにそっと静かに絡ませた彼の小指は、それすらも拒むように酷く冷たかった。
「おい、美羽。準備出来たか?」
「あ…昴さん。すいません、お待たせして…。今、終わりました」
「……」
「…昴、さん?」
「あ、いや…。純白のドレスも最高に良かったが、その色直しのドレスも…お前に良く似合ってる」
「ふふ。昴さんの見立ては間違いないですからね」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる?お前のことは、この俺が1番熟知してんだよ」
「昴さん…。本当に、ありがとう」
「何だよ、改まって。別に礼を言うようなことじゃねーだろ」
「うん。そうなんですけど…」
「ほら、会場の客たちが俺たちを待ってんだ。行くぞ!」
「…はい」
差し出された全てを包み込む大きな掌に、そっと自分の手を重ね合わせる。
薬指にはあなたを待てなかった罪。
小指にはあなたを愛した真実。
本日花嫁日和。
幸せはいつか届くでしょうか。
例えばあなたが
約束をくれたなら
(今でもそう思ってしまうのです)
ねえ叶うなら…
あなたの隣でこれを着たかった。
20111228
title:たとえば僕が
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