――僕は蝸牛である。

これは僕が思うこと全ての話。
蝸牛とは、耳の器官ではなく、陸貝の方。「かぎゅう」ではなく「かたつむり」の方。
彼等はきっと僕に近い。
殻にこもっては天敵から身を守る。血管や内蔵を吐き出すわけにはいかない。大切に殻にしまう辺りが、正しく僕だ。
自分の身を守りながら陸を進む。僕は割と兵士に近いのではないかと思ったりもする。
その点蛞蝓は全くと言っていいほど無防備だろう。
進化と言うべきか、否――僕は敢えて「退化」と呼ぼう。
皮肉にも、殻を捨てた彼等は丸裸で大地を闊歩しているに過ぎない。
それが僕とは違う、――正しく彼女なのだろう。
最も、良い目で見れば、重い殻を捨て、自身のみで世界を生きる強さと逞しさを持つ。言わば自由の翼を惜しみもなく広げきった、鳥籠から這い出た小鳥か。
それが僕にはできなかった。――そう考えるとやはり、「進化」と呼ぶべきなのかも知れない。

「自分の世界に籠ってるだけじゃつまらない」

ある日彼女はそう言って、僕の前から立ち去った。
何を思ってそう言ったのか、何を考えて行動しているのか。
その思考が到底理解出来ないから、多分僕は蛞蝓になんかなれない。

「君が自由である理由を教えてくれ」

一度だけ、そう尋ねたことがある。
その時の彼女は、ふっと笑って毅然と芯のある声で、『決まってるでしょう』と言ってのけた。

「――楽しいからよ」

空を仰ぐのも、大地を踏みしめるのも、言葉を使って喋るのも、森林の空気を胸いっぱいに吸い込むのも、生物の鼓動の音を聞くのも全て。
――世界は『楽しい』で溢れている。

胸を張ってそう答えた彼女には色彩豊かな色が付いていた。
まるで自分を惨めに思わさせる、そんな色が。
日向を恐れた僕を通り過ぎて、彼女が真っ直ぐ踏み出すように。

――僕は蝸牛である。

彼等はとても僕に近い。
殻にこもっては天敵から身を守る。血管や内蔵を吐き出すわけにはいかない。大切に殻にしまう辺りが、正しく僕だ。
自分の身を守りながら陸を進む。僕は割と兵士に近いのではないかと思ったりもする。
その点蛞蝓は全くと言っていいほど無防備だろう。
――だが彼等には世界を謳歌する力がある。
蝸牛は一生、殻のために栄養を取って生きなくてはならない。――まるでサラリーマンみたいだと誰かが言っていた。囚われているようだ。
自由を選び取る力があるのならば。
例えばそんな力を憧れのままにせず、羨望を向けたままにせず、手に入れることが出来るのならば。

――僕は蛞蝓である。
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