Lv2 研磨剤 (音咲涙華)


やぁ、こんにちは。今日もいい天気だねぇ。
え?曇り空だって?僕にとっては全部いい天気だよ!

あっ!ごめんごめん!自己紹介がまだだったね。僕は南雲夕紀。街のしがない掃除屋さんさ。よろしくね!

さて。君が今日から僕と一緒に働く人かい?じゃあ早速、街をピッカピカに磨きますか!

仕事内容は大丈夫だよね?だって掃除とか小学校からやってるでしょー。
はい、これ。この箱から要る物出してとにかく磨け!
じゃあ僕はあっちの方をやってくるねー!

さぁーて。今日も塵ひとつ残さないからなー!覚悟しろよ!僕の街!マイタウン!
......って君まだいたの!?君の掃除区域は向こうだよ!
え、何?後ろ?なn......うぇええええええええ!?
何だこれ巨大なフレンチトースト!?に、喰われる!?
ってえぇ!?落ちっ!?うわあああああぁぁぁぁ......










はじめから
つづきから
さいごから




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「......ぁぁああああああ!!」

ズシャッ

「痛っててて......って.、え...ここどこ......?」

気が付いたら僕はお洒落な街並みのど真ん中にいた。
レンガを基調とした、何だかヨーロッパ辺りにありそうな、僕の人生とはあまりにもかけ離れた街だ。

「僕の命(掃除道具)は!?」

あれがないとやっていけないと思い周囲を見回すと、すぐ手元に転がっていたブラシと洗剤を見つけた。
流石に掃除道具が沢山入った大きな箱は無くなっていたけど、この2つがあれば掃除はできる。
僕はなんとか平静を取り戻すことができた。

「あれ......?痛い......。」

掃除道具を見つけてホッとしたからか、何かが痛いことに気付いた。
さっきのフレンチトーストの怪物に喰われて怪我でもしたんだろうか。
いや、物理的な痛みじゃない。......さっきの華麗なる着地で物理的にも痛いけども。

......ヒソヒソ......ざわざわ

ああ、痛いのは視線か。......って、視線?

『うぎぅ...っ』

「ふぇ!?」

慌てて見ると、7歳くらいの女の子を下敷きにしてしまっていた。

「だ、大丈夫!?」

体を揺すってみた。出血とかは無さそうだ。少し安心した。
それにしても、見れば見るほど綺麗な子だ。“可愛い”と言うより“綺麗”が似合う。
青みがかったストレートの銀髪を、少しぐしゃっとした感じに下ろしている。左右で長さが違う、不思議な髪型だ。
その髪の上に氷の花を模した髪飾りを付けている。

ムクッ......

目も綺麗だ。透き通るように青く、宝石のような鋭い目が僕を見据えて......。

「なっ......!?」

気が付いたら僕の首に短剣が当てられていた。しかも本物の。この子は一体何者だろうか。

『○▼※△☆▲※!!』

目にも止まらぬ速さで短剣を僕に突きつけたその子は、幼い容姿に似つかわしくない鋭い瞳で、短剣を離すことなく僕を見据えながら言っ......怒鳴った。

「え、えっと......?」

怒鳴られてるのは分かるが、この子が何を言っているのかさっぱり分からない。

「......ご、ごめん、えっと、もう1回言って?」

『&*+◇※▲∴÷?』

やっぱり分からない。心無しか向こうも不思議そうにしている。

短剣が当たらないように目だけで周りを見回してみる。
街ゆく人は相変わらず僕らを凝視している。
建物を見ると、お洒落な街並みにいい感じに馴染んだお店らしきものがいくつかある。見た限り、花屋、喫茶店、武器屋?あとはよく分からない。

そして、人や街を見る限り、日本語はおろか、英語も中国語も、聞いたことのありそうな言葉が全く無い。

嗚呼、神様。へんてこな怪物に喰われてから数分、僕は大変なことを知ってしまいました......。

この世界、言葉通じねぇ!

僕、生きて帰れるのかな......。




セーブ中......




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とりあえず首元に短剣というこの状況を何とかしないといけない。
僕は、とりあえず片っ端から謝り方を試してみることにした。

「ごめんなさい!」

『≫■※?』

デスヨネー通じませんよねー。

「あぃ......アイムッそ、ソーリー。」

『......?』

精一杯の英語もあえなく敗退。
あ、でも短剣が首元から離れた。動ける。

「ごめんっ!!」

今度は両手を合わせて誠心誠意のお辞儀をしてみた。
シーンとなる空気。
恐る恐る顔を上げてみると、女の子は相変わらず僕を見据えている。
ただ、申し訳ないという気持ちは伝わったようで、短剣は完全に鞘に収めてくれた。
ジェスチャーならある程度は通じるみたいだ。

「よかった......。」

一気に緊張が解けたみたいだ。腰が抜けて崩れ落ちそうになるのを何とか堪える。血液が全身に行き渡る感覚。凄く緊張していたことを今更ながら知る。やっぱり刃物はだめだな。怖い。

見ると、女の子の目から鋭さが消えた。危険じゃないと認識して貰えたのかな。......こっちから言わせてもらうと君の方が十分怖かったよー。......って言っても通じないだろうけど。
そうだ。帰り方、は無理でもせめてここがどんな所かこの子に聞けないだろうか。

「あ、あのっ!」

女の子が何処かに去ろうとしていたから慌てて呼び止める。すると、立ち止まって振り返ってくれた。

「え、えっと......ここ、は、どこ?」

地面を指さしてみたり目の上に手をかざして探す仕草をしてみたり、ジェスチャーでの会話を試みた。

『▼※<......。』

その子は少し喋ってからしばらく考え込み、急に僕の手を引き歩き始めた。
どこに連れていかれるんだろうか。少し不安だけど、いつまでもあの広場に留まる訳にもいかない。

そんなことを思いながら付いて行っていたら、街の出入口らしき門にたどり着いた。
門の外には街中とは打って変わって豊かな自然と、人が歩いて出来たような土の道が見えた。

女の子に導かれるがまま、僕はその街を後にした。




セーブ中......




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外に出ると、目を疑う光景がそこには広がっていた。
この世界に僕を連れて来た元凶のフレンチトーストの怪物、の仲間だと思われる大きな怪物がうじゃうじゃ居た。

『......?』

足がすくんで急に動けなくなった僕の顔を、女の子が覗き込む。

『▲*厂□ ?』

やっぱり通じない言葉を喋り、その子はまた僕の手を引き始めた。
そして、サンドイッチのような怪物に向かってずんずん歩いていく。

「え、ちょっ!?」

怪物に気付かれた。臨戦態勢に入る怪物。同じく短剣を取り出し構える女の子。仕事中からずっと持っていたブラシと洗剤を握り締めたまま動けない僕。

心の準備なんてする暇もなく、ここがどんな世界なのかもよく分からないまま、僕の意志とは裏腹に激しい戦いが目の前で繰り広げられる。

▼女の子の先手攻撃!
▼怪物に47のダメージ!
▼怪物は女の子をサンドした!
▼女の子に19のダメージ!
▼僕は相変わらず足がすくんでいる!
▼怪物の攻撃!
▼僕に36のダメージ!
▼僕は気絶した!


暫くして目が覚めると、さっきの街の入口に戻っていた。
どうやら女の子が何とか怪物を倒して僕を運んでくれたようだ。女の子も疲れた様子に見えた。

『▲>□☆⊂......。』

僕が目を覚ましたことに気が付いた女の子は、呆れたような目で僕を見ている。

「うぅ......申し訳ない......。」

と言うか、僕が謝ることなのだろうか。あんな怪物がいるなんて聞いていない。
......いや、言葉が通じないんだから無理もないか。

しょぼくれていると、いきなりグイッと腕を引っ張られた。
慌てて立ち上がると、女の子は更に僕の腕を強く握り締め、何かを唱えた。

『Σ>§∞σ⊂☆......。』

突如、足元に青く輝く魔法陣が現れ、脳の処理が追いつかないうちに僕は......僕らは強い光に包まれた。
眩しすぎる光に思わず目を瞑ると、直後、体を猛烈な浮遊感が襲った。
そこで記憶は途切れる。

僕、気絶してばかりだな......。
薄れかけている意識の中で朦朧と、そんなことを考えていた。




セーブ中......




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気が付いたら僕は、柔らかいベッドの上で寝ていた。
もしかして、今までの事は全部夢だったとか......?

『▽※■\⊂厂?』

あ、夢じゃなかったようです。
がっくりと肩を落としてる僕に、何だかんだ一緒に居てくれている女の子は少し戸惑い、それからずいっと顔を近付けた。

「な、何!?」

『▲□ 、◎§ 、☆>。』

ゆっくりと、そして1音1音ハッキリと、その子は何かを発音した。

『▲ぁ 、 ◎§ 、 ☆ぃ。』

耳をすましてみる。

「...か、む、うぃ?」

ぶんぶんと首を振られた。違うようだ。

『▲ゃ 、 ◎ぅ 、 り。』

「きゃ、む、り?」

少し考えてからまた首を振られた。えっと...惜しいのかな...?

『きゃ 、 る 、 り。』

「きゃ、る、り?」

ぱぁっとその子の顔が明るくなった。“きゃるり”?
その子は自分の胸に手を当てたり自分を指さしたりしながらもう1度言った。

『きゃ、る、り!』

そうか。名前だ。
僕はその子の目をしっかりと見つめながら繰り返した。

「キャルリ。」

年相応の可愛らしい笑顔でコクコクと頷いてくれた。
するとキャルリは、今度は僕を指さして首を傾げた。僕の名前を聞いているのだろうか。

「ゆ、う、き。」

僕も1音1音区切ってハッキリと発音した。

『ゆ、う、き ?』

1回で聞き取れたキャルリに驚きながら、僕は満面の笑みで頷いた。
キャルリは満足そうに笑った。最初に出会った時の鋭い目が嘘のようだ。

『ゆーき!』

すっかり子どもらしい笑顔を浮かべてくれるようになったキャルリは、僕の名前を呼ぶと部屋の中で走り出した。
微笑ましく思っていると、キャルリはドアの前で立ち止まり、振り返り、手を振りながら僕を呼んだ。

『ゆーうき!』

そう言えば、あの光る魔法陣は一体何だったんだろうか。 などと考えながらキャルリの後について行き、外に出た。

「えっ......?」

そこには、さっきまで居た街ではなく、本やテレビで見る事はあっても実際に入った事は無かった“村”というものが広がっていた。
僕らが出てきた、宿屋?の目の前には牧場。そして土で出来た道。畑も、井戸もある。街が近くにあるとはとても思えない。

まさか瞬間移動でもしたのだろうか。いや、本当にしたのかも知れない。こんな不思議な世界なのだから。
そう言えば、この世界に来てから随分時間が経ったけど、お腹も空かないし眠くもならない。それもこの世界の特殊さなのか。
......眠くならないのは気絶しているせいかも知れないけど。
と、それは置いておいて。僕らは村を出て、フィールドへと入っていった。




セーブ中......




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村の外には、予想通り怪物たちがうようよいた。
林檎、バナナ、じゃがいも、人参、レタス......。美味しそう。

「帰りたい......。」

ポロッと口から零れた。
帰りたい。普通の林檎を食べたい。林檎とバナナが入ったポテトサラダ、帰ったら作ろう。
今まで色んな事がありすぎて目の前に必死で忘れていたが、僕の帰る場所はここには無い。僕の好きな料理もここには無い。唯一僕の大好きな掃除は出来るけど。

『▲Σ......?』

キャルリが心配そうに振り返る。
なぁ、教えてくれよ。帰り方。僕はこんな所に居たい訳じゃないんだよ。怪物倒しながら生きる生活なんてしたくない。
......って言っても、通じないだろうけど。

「......こんな世界で生きたくなんかねぇ!」

僕は八つ当たりのようにそう怒鳴ったつもりだった。
しかし、零れたのは汚い嗚咽だけだった。
キャルリはそんな僕を見つめて、見つめて、見据えて......。まるで心の底まで見据えられているかのような透き通った目で僕を見続けた。

何十分過ぎただろうか。いや、数秒かも知れない。
それくらい重い沈黙の後、僕の体をふわっと温もりが包......めずに腰に小さな手が添えられた。

「......キャルリ?」

嗚咽混じりの僕の声は小さく、消えてしまいそうだった。
そんな僕の存在を繋ぎ止めるように、キャルリは僕を強く抱き締める。

僕は我に帰った。キャルリは僕なんかよりずっと小さい。
この小さな手で、あの恐ろしい怪物達を倒して生きてきたんだ。
家族とか、頼れる人が居ないのかも知れない。
そんな中で、彼女は僕に笑顔を見せてくれた。

「......ありがとう。」

僕はキャルリの頭を撫でた。
こんな小さな子に心配はかけられない。......いや、気絶しまくってるし手遅れかも知れないけど。
でも、これ以上心配かけさせてたまるものか。
それに帰る方法だって無いと決まった訳じゃない。

僕が前向きになったのを見たキャルリは、再び僕を連れて怪物に向かって歩き始めた。

「えっ!?早速!?」

ひえぇぇ......やっぱり怖いいぃぃぃ!!




セーブ中......




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キャルリは林檎の怪物に背後から近付いていきなり切りつけた。
それを皮切りに、怪物との戦闘が始まった。

▼キャルリの攻撃!
▼怪物に29のダメージ!
▼怪物の体当たり!
▼キャルリに6のダメージ!

その時突然、キャルリは僕の背中を怪物の方へと強く押した。

「えっ!?」

怪物の目の前に来て怖気付く僕。僕に気付いて今にも襲いかかろうとしている怪物。
それを見たキャルリは、怪物に向かって短く口笛を吹いた。
すると、怪物がキャルリに気を取られた。
キャルリは武器を構えて見せて、僕に頷いた。

「闘えってことか......。」

僕は覚悟を決め......ることはできなかったけど、目を瞑ってブラシを振り回した。
ブラシは1回だけ怪物に掠った。

▼怪物に3のダメージ!

キャルリは僕に頷きながら笑いかけ、そのまま怪物に向かって走った。
▼キャルリの攻撃!
▼怪物に82のダメージ!
▼怪物を倒した!

「やっ......た......。」

実質僕は何もしていないが、初めて怪物を倒した場面に立っていた。それだけでも、達成感を感じた。

突如、僕のブラシが光り出した。

「な、何!?」

光りながら形を変えたブラシは、その姿を少し武器っぽく変えた。
ブラシの先が剣山のように鋭くなり、持ち手に何か紋章のようなものが刻まれた。
レベルアップ......のような感じだろうか。

「このブラシだと掃除ができない......。」

元のブラシがいいな、と思った。思ってしまった。
するとブラシはまた形を変えて、元の姿に戻った。

「あ!今のなし!!」

慌てて叫ぶと、また武器の形に戻った。
どうやら1度得た形なら好きな時に変えられるようだ。安心した。掃除もできるし武器にもなるブラシなんて最強じゃないか。

よし。この調子であのフレンチトーストの怪物を探して倒そう。そうすれば、もしかしたら帰れるかもしれない。

僕はほとんどキャルリに怪物を倒してもらっていることを忘れて、そんな事を決意した。




セーブ中......




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怪物を倒したばかりのキャルリと目が合った。

「ありがとう。」

『§☆▲∞□。』

言葉が通じないのを忘れてた。お礼を言いたいけど......それを伝えるのは難しそうだ。
それより、あのフレンチトーストの怪物を探したい。......絵で描けば分かるかな。

「こっち、来て貰っていい?」

『\◎▲?』

言葉が通じない。言ったそばから喋ってしまった。

僕は土が見えている場所に手招きして、適当な小枝であの怪物の絵を描きはじめた。
僕の絵で通じるかは分からないけど、多分これが1番早い。

『σ△⊂●......。◆○∀?』

通じたかどうかすら分からない。
とりあえずキャルリなりに解釈はしたみたいで、案内してくれるようだ。
僕は今までと同じように、キャルリに付いていくことにした。

『Σ>§∞σ⊂☆......。』

キャルリは僕の手をしっかりと握り、何かを唱えた。
すると、僕らの足元に魔法陣が現れた。
今度こそ気絶しないように必死で踏ん張っていると、目を開けていられない程の光に包まれた。キャルリの手の温度を頼りに意識を保つ。すると、やはり猛烈な浮遊感が襲い掛かり、僕らの体は宙に浮いた。
数秒後、足元に地面を感じて目を開けると、最初にキャルリと出会った街よりも大きな街の入口に居た。

キャルリは僕が気絶していないのを確認して、早速街の外に出た。これでは怪物が居ない景色に安堵している暇もない。

「早い早い心の準備が......。」

僕の言葉はキャルリの耳に届かない......と言うより通じなかった。そして街に来て数秒、その街の出入口の門をくぐった。



セーブ中......



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外に出ると、やっぱり怪物がうようよ居た。ショートケーキ、クリームシチュー、フォンダンショコラ、ステーキ......。
さっき倒した林檎の怪物よりも遥かに大きい。比べ物にならない。

怪物達の間をくぐり抜け、キャルリは周りを探しながら歩きだした。
僕も慌てて後を付いて、フレンチトーストの怪物を探す。

▲○厂!!』

キャルリが叫んだ。見ると僕の背後を指さしている。
振り返ると、僕の身長の3倍くらいのポトフの怪物が僕に襲い掛かかろうとしている所だった。

「うわあああああああぁぁぁ!!??」

あ......死ぬ......。
ブラシを握り締めて動けずにいる僕。襲い掛かる恐ろしいポトフの怪物。どう考えても僕の死end確定だ。

僕は今までの人生に思いを馳せた。
僕が産まれた時の話、親から何度も聞いたな。親戚一同集まって病院で大騒ぎして怒られたとか。
幼稚園の頃、微かに覚えてる記憶。外国に旅行した友達が羨ましくて行きたいって泣きわめいたっけ。
小学校、途中で転校して友達ができなくて、ずっと学校中を掃除してた。
中学校、見事に2年の時に中二病を発症したな。......黒歴史だ。
高校、また友達ができなくて、やけになってあらゆる所を磨きまくってた。
大学、掃除サークルを作ったけど1人も入らなくて結局1人で活動してたな。
念願の清掃会社に就職して、掃除の毎日を手に入れた。幸せだった。
仕事中、フレンチトーストの怪物に襲われて、この変な世界に来て......。

『ゆーき!』

キャルリ。頼りない僕を導いてくれた小さな女の子。
でももうお別れか......。

『ゆーうーきー!』

やけに鮮明に声が響く。幻聴ってこんなに響くんだ。

「あれ......?」

幻聴じゃない。キャルリが僕を呼んでいる。そして僕は生きている。

『◆§⊂∞○。』

どうやらキャルリが何とか僕を助け、ポトフの怪物を倒してくれたようだ。怪物がすぐ側に倒れている。
つくづく僕はキャルリに頼ってばかりだ。本当に申し訳ない。

『▲§⊂σ!』

キャルリに手を引かれてまたフレンチトーストの怪物探しを再開する。

キャルリは怒ってないかな。と、あまりに足を引っ張りすぎて不安になり、キャルリの顔を覗き込んだ。
それに気付いたキャルリは、優しい笑顔を僕にくれた。
この笑顔に、僕は一体何回救われたんだろう。今もまた、不安から救われた。




セーブ中......




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フレンチトーストの怪物を探して歩き回ること約10分......くらいだと思う。
次は襲われないようにと息を殺して、周りに注意して歩いていた。

蜂蜜の香りが漂ってきた。香りの元を探すと......居た。フレンチトーストの怪物。見覚えがある。あいつに喰われてこの世界に来た。

「キャルリ!」

僕はキャルリを呼び止めて手を引いた。
キャルリもその怪物に気付き、一緒に向かってくれた。

怪物との戦闘が始まる。
▼キャルリの先手攻撃!
▼怪物に35のダメージ!
▼怪物の蜂蜜ぶっかけ!
▼キャルリは動けなくなった!
▼僕は無我夢中でブラシを振り回す!
▼腰が引けて当たらない!
▼怪物の攻撃!僕に187のダメージ!

▼僕は 死 ん で し ま っ た !




セーブ中......




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目が覚めると、僕は真っ白なベッドで寝ていた。

「あれ......僕、死んだんじゃ......?」

『◎★○§◆∞σ。』

シスターらしき人がやってきて、僕に優しく話しかけた。

「す、すいません。えっと......その......。」

『......▲□§\。』

言葉が通じないと分かったシスターは、数歩歩いて振り返り、僕を手招きした。
僕はシスターの後に付いてその部屋を出た。

部屋を出ると、そこは立派な教会だった。高く丸い天井にステンドグラスの窓が神々しい。
シスターに案内された部屋に入ると、黄色い光に満ちた大きな筒の横に神父様が佇んでいた。

『厂□★◆◎。』
『§¤∇∀。』

そこに居た神父様にシスターが何かを伝えると、神父様は僕を部屋の中の椅子に座らせた。
シスターは僕の座った椅子のすぐ側に立ち、神父様を指差した。見ていろということだろうか。

神父様は20個くらいあるモニターに目を凝らしている。
モニターの中には、怪物と闘っている人が映っていた。見ると、ほとんど人間が圧倒的に不利だ。

モニターに映った人が死ぬと、神父様はその人をタップした。このモニター、タッチパネルなのか。
すると、部屋にある黄色く光る筒の中にタップされた人が現れた。その人はひどい怪我をしていたが、筒の中でどんどん傷が癒えてきた。
傷が完全に癒えると、別のシスターがやってきて、その人を運んでいった。

なるほど、死んだ後、僕はこの教会で生き返らせてもらったのか。

●□¤∇。』

一通り見せてくれたシスターが今度は僕を玄関まで案内してくれた。
言われるがままに、僕は教会を後にした。




セーブ中......




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外に出ると、そこには全く知らない景色が広がっていた。真上に上がった太陽の光が街中を煌めかせている。
街全体に愉快な音楽が流れている。目の前には澄んだ川があり、お洒落なカヌーが人を乗せて楽しそうに過ぎていく。テラス席のあるカフェからは笑い声と甘い香りが漂ってくる。

ふと思った。
キャルリは何処だろうか。いつも目を覚ました時に傍に居てくれたのはキャルリだった。いつも導いてくれたのはキャルリだった。思えばこの世界に来たその瞬間から、僕はキャルリと一緒に居た。

それに気が付いた瞬間、急にとてつもない不安が頭の中を覆った。キャルリを探さなければ。
僕は駆け出した。当てなど全くないけれど、とにかくじっとしていられなかった。

人通りの多い街並みを潜り抜ける。土産屋、武器屋、カフェ、広場。あの綺麗な青みがかった銀髪を探す。初めて名前を呼んだ時のあの可愛い笑顔を探す。出会った時のあの鋭い瞳を想う。僕の名前を呼んでくれたあの声を求める。

「キャルリ!?」

長い銀髪が目の端を掠った。一瞬キャルリかと思ったが、全然違う人だった。

その後も探して探して探し続けて、時だけが過ぎていった。
ふと空を見ると、既に薄暗くなり始めていた。もうすぐ日が暮れる。
行く宛の無い僕は、意思も力もない足で広場のベンチに座り込んだ。

「これからどうしよう......。」

僕1人では、とてもじゃないけどあのフレンチトーストの怪物を倒すことは出来ない。
そもそも倒しても帰れない可能性だって充分にある。
どう考えても八方塞がりだ。

「ああああああああもう!!」

こんな無理ゲー、どうやってもクリア不可だ。僕はブラシと洗剤を地面に叩きつけ...かけてやめた。
僕の命(掃除道具)を壊す訳にはいかない。

「掃除、道具......。」

ずっと握りしめ続けていた、武器と化したブラシと洗剤に目をやる。

「......普通のブラシに、戻れ。」

ブラシはふわっと光を発し、そして至って普通の掃除用ブラシに戻った。

「......うん。掃除しよう。」



▼ 主人公 は あきらめた !




ーGAME OVERー

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