どぷん。
それは水の音。
朝六時から九時にかけて、陽の光がゆらゆらと揺らめく世界に変わる。
『今朝は満潮です。目の前を通る魚に目を奪われないよう、通勤通学は気を付けてください』
テレビの中で天気予報が言った。
確かに、今日は水がどこまででもある。と、空を見上げて思った。
おかげで家の中を右往左往している魚達ばかりだ。
ああ困る。
――テレビが見えないじゃないか。

八月。午前六時。
夏休み中にも関わらず私は早起きだ。
それもそのはず。今日はゴミ捨ての日。
両親は多分まだ寝ている。それもぐっすり。
仕方がない。
夏休みと言えど、社会人は仕事だから。
ついでに言えば私はこの、魚が真横を通り過ぎるこの朝の空気が好きだから。
右から順に、イワシ、サンマ、ミノカサゴ、マグロ、etc。
季節も場所も何もかも関係なく、彼らはただ泳いでいる。
しかしそれは、昼になれば潮が引いてしまうのか、ぱたりと居なくなってしまうからつまらない。
ぶっちゃけ四六時中泳いでいてくれればとか思う。
適当なTシャツとショートパンツに着替えた後に、ゴミを両手で持って、足でドアを蹴って開ける。
散歩をしている老夫婦が家の前を通り過ぎた。
彼らはだべりながら、目の前にいる魚を何の気も持たずにぶつかりに行った。
――まあ、ぶつかりはしないのだが。
この魚達は通り抜けることができる。人も、壁も、何もかも。
まるで生きている世界が違うように。
それは一般人に限っての話。
私はと言えば。
「あたっ」
ごん。
老夫婦に目を向けていた為、横から来ていた魚に気付いていなかった。故にぶつかった。
くそぅ。イシダイか。食べられるなら食ってしまいたい。
私はこの魚達に何故か触れることができる。何故か。
もちろん向こうは通り抜けられると思っているのか、はたまた何も考えていないのか。
避けようなどとはしないから、私が気を使わないといけない。心底面倒くさい。
先程の『生きている世界が違う』ことを仮定すると、つまり私は中途半端なんだろう。
意味がわからん。
「あ、藤崎サン」
「お、クソ速瀬」
隣の家からひょっこり顔を出した青年。
幼馴染みで速瀬家長男坊でひとりっ子さんだ。
ついでに言えばこいつも『生きている世界が違う』半端者。
名前の前に『クソ』を付けたにも関わらず、何の反応もしてこない。つまらない奴だ。というか慣れって怖い。
「お前さんもゴミ捨てかい」
「おうよー。母さん達がまだ寝てるからねぇ」
「あー、ウチも一緒。仕方ないけど扱き使うのはよしてくれってカンジ」
「分かるわー」
どうでもいい会話を並べてゴミ捨て場に向かう。
まあまあ近いから、割とすぐに終わった。
ドサッと投げ捨てて、帰り道につく。
「お前の女子力もゴミと一緒に捨てちまったんじゃねぇの」
「否定しない」
目の前を通りかかるアジをつんとつつく。
アジは驚いたようにぴゅーっと逃げてしまった。
そんな私をよそに、速瀬は遠い目をしてみせる。
「いつの話だろうな」
「っていうかそもそも生まれた時から無かったのかも」
と、突如。
そこら一帯を大きな影が覆った。
上を見上げてみると。
ほう。
「鯨だ……」
「何の種類?」
「ザトウクジラっぽい。ナガスクジラ科。体長は約十一から十六メートル。体重は約三十トン。分布は主に」
「詳細乙。そういうのいい」
「了解」
遮られてしまった。
分布は主に小笠原諸島や沖縄諸島で。
それから一曲数分から三十分にものぼる歌を唄うらしい。
素敵な鯨だと思う。
私は自分がわくわくしているのを感じていた。
そう、まるであのザトウクジラが、『付いてこい』と言っているように。
海の中をゆっくりと、体全体を使って泳いでいくその姿に、わくわくした。
「……付いてく」
「は?」
「ザトウさんに付いて行ってみたい」
「え、それ名前のつもり? センスも落としてきたのか……」
「うるせぇクソ速瀬」
アレだ。こいつは鯨に飲まれてしまえばいい。それで吐き出されて、鯨に必要とされないのを肌で感じればいい。
「付いて行ってどうすんの」
「大丈夫、昼には帰る。お腹空くから」
「いやそういう事じゃなくって」
「あ、ザトウさん行っちゃう」
「おーいおい藤崎さん? 待てって、ちょっと!」
そんなこんなで揺らめく光の中を、私達は駆けていった。



「ぜ、はっ、いつまで、続く、の」
「大丈夫かい速瀬クン」
「おまっ、息っ、切れてなッ」
「鍛え方が違うのよ、軟弱者め」
住宅街を抜け、商店街を抜け、学校を通り過ぎ、いつの間にか森になっていた。
何故。
「森なんてあったっけ」
「森林公園とか?」
「こんなに高い木なんてあったっけ」
「……ないな」
近くの幹にそっと触れてみた。
うむ。
何にも思わなかった。
そもそも植物には興味がなかった。
植物学が得意なのは。
「植物界裸子植物門マツ綱マツ目ヒノキ科セコイア属セコイア」
「……ごめんなんて?」
魔法の呪文か何かかと思った。
植物学は速瀬が得意だ。ちなみに私は知っての通り魚類、海獣専門。
「ま、つまりはセコイアっていう木。でも大体はアメリカの方とかにあるんだけどな。セコイア属の常緑針葉樹で、セコイアスギ、レッドウッドなどとも呼ばれ、」
「詳細乙。その辺に埋まってて」
「了か……え、僕の時より酷いこと言うね!? 了解しないからな!」
そんな速瀬を無視。
そうしているうちに大きな影を見失ってしまったことの方が問題だった。
あらら、しまった。ヘンゼルとグレーテルみたいに何かするべきだったか。
つまり、ここどこ状態である。
「迷いましたぜぇ……」
「お前馬鹿なの!? 何なの馬鹿なの!? だから言ったじゃん!」
「別に付いてこなくても良かったのに」
「うっさいわ! 一人で勝手にどこか行かれたら心配だからな!」
「トゥンク」
「誰も藤崎さんには興味持たないから安心しろ」
「知ってる」
『トゥンク』って言ってみた瞬間速瀬のテンションが駄々下がりだった。
こいつ、殺す。
鮫に囲まれて恐怖を感じつつ、何もしてこないことに不快感を覚え、いつまでも動けない状況になればいいのに。
っていうかそもそも。
「魚すらいないですねぇ」
――何も無かった。
一応付けていた腕時計を確認する。
午前七時。
相変わらず空気は湿り気を含んでいて、水の中に居るような少量の浮遊感を感じさせる。
木とか、地面に生えた草や苔とか、色とりどりのキノコがちらほら生えたりだとか。
動物以外は居るのに、生きているものが何一つないんだけど。
「詰んだ〜〜」
「鼻歌交じりに言うなよ」
そんなに深刻に思ってないだろ! と速瀬が吠える。
うるさいわんわんだ。私は犬より猫派なんだが。
友人である神崎さんの方がよっぽど猫っぽい。
「猫連れてこれば良かった」
「何の話!?」
兎にも角にも。行き詰まりなのは変わらないこの状況。
果てさてどうしたものかしら。
「む?」
「どうしましたよ速瀬クン」
「あ、いや。なんかそこを通った気が……」
と、連なる木々を指さす。
何も無いっぽい?
いや、なんかあるっぽい。
ちらりと見え隠れしている人が持つような髪っぽいモノ。
で、その反対側からは魚の尾びれっぽいモノ。
「……何アレ」
「知らん。人と……魚?」
「人と魚……」
ふわり、と。
木の影から出てきた人と魚――と言うより人が魚。魚が人。
「「人魚だぁ」」
見事に被った。
セリフが見事に。
そう、つまりは人魚。
上半身が人で、下半身が魚。
それは彼女だけではなくて、気付けばそこら中に居た。
っていうか。
うん。
「囲まれてんな」
「どーすんだよ、おい、専門家!」
「おまっ、バカ野郎。専門外だわ! ジュゴンなら分かる!」
そうこうしているうちに彼女達は美しい音色を奏でるように、楽しげに、舞うように泳ぎながら唄い始めた。
「難破!?」
「私達船乗ってないっつの」
くすくす。
くすくす。
くすくす。
少女のように甲高い声が漏れる笑いをそこら中に響かせている。
しかし泳いでいる人魚達を見ても、誰一人としてこちらを見ているものは居ない。
顔は笑顔なのだが、それでも唄うばかりで、笑っている者は居ないのだ。
と、足音がした。
「ふふふっ、久しぶりにお客様だと思ったら、こんなにも面白い方達で。ふふっ」
カーブを描いて足元まである漆黒の髪を揺らして、少女は肩を震わせた。
――誰。
足がある。人魚では無さそうだ。人だと思う。
十二歳くらいだろうか。超絶美少女だ。
うん、ただ。
――誰。
ちらりと隣を見ると、目の前の美少女に目を奪われて、アホみたいに惚けている速瀬が見えた。
速瀬ってロリコンだったのか。知らなかった。
こいつはもうダメだな、と自己判断して話しかける。
「あの、どちら様でしょう」
「あらあら、すみません。ふふっ」
彼女は相変わらず口元を抑えて控えめに笑っている。
なーにがそんなに面白かったのか。
「わたしのことは自由にお呼びください」
「名前とかは」
「ないですよ〜〜」
少女はきょとんと首を傾げた。そして楽しげにくるくると回り始める。
やっべぇ痛い子かも知れない。
「じゃあ姫ちゃんで!」
はい! と挙手をして、それまで黙っていた速瀬が急に声をあげた。
私は半眼で彼を見る。
「姫ちゃんて……お前もネーミングセンス人のこと言えないぞ」
「いやいやだってさ、ここの人魚達のお姫様みたいじゃん」
「驚きました。あながち間違ってもないです」
「えっ」
少女は驚きの表情で、くるくる回っていた体を止めた。
「正確に言えば、彼女達はわたし。わたしは彼女達、です」
「?」
「まあ深く考えないでください。彼女達は魚みたいなものですから」
魚とお姫様。
……竜宮城か、ここは。
少女――姫ちゃんは白いワンピースを羽根のようにはためかせて、軽やかなステップを踏む。
「さあ、遊びましょうか」
「は?」



周りの人魚達がオーケストラのように楽曲を声量のみで奏でる中、私はひたすら走っていた。
「くそっ、子供体力侮れがたし……!」
「ふふふっ、鬼さんこーちら!」
なんでこうなったのかよく分からん。
ザトウさんを追いかけて、不思議な場所に迷い込んだ挙句、わけわからない幼女に遊ばれていた。
そもそも私の目的はザトウさんで、ザトウさんを探さなければならないはずだが。
速瀬はと言えば、持ち前の体力の無さで、真っ先に死んだ。
死んだ時に流れる『ちーん』という音が流れたかと思ったくらい、流れるような動作で地に突っ伏したのが先刻の出来事。
高校で数人だけの生物学部を共に営んでいるというのに、なんという体力の違い。
まあ、私は中学は水泳部だったので当然の結果か。
ちなみに彼は帰宅部だった。
しかし、こんな何時間も走り続けていると、流石にしんどい。
姫ちゃんはすっごく元気だ。
底なしの体力なのか、笑顔で走り回っている。
「も、むり……!」
「えー、もう終わりですかー?」
既にへろへろになっていた私はどさりと膝をついて座り込む。
姫ちゃんが膨れっ面で抗議してくるが、知ったことか。無理なもんは無理だ。
何が竜宮城だクソ。
なんのもてなしも無いどころか超疲れた。
「仕方ないですね……お弁当にしましょう」
「へ?」
――飯、あるの?
だいぶ間抜けな声を出したのか、姫ちゃんが顔を歪ませて覗いてきた。
「失礼ですね、ありますよ」
「……メニューは?」
「魚のフライサンドイッチです」
――そこら辺に魚、もとい人魚がいるんだけど。
「真鯛を贅沢に使ってますよ」
「いただきましょう」
掌を返すように秒速で態度を変える。
その間僅か〇・五秒。
真鯛はそうそう簡単に手を出せるような代物じゃない。
それを昼(?)のサンドイッチに使ってしまうとは。
ていうかそもそも真鯛をフライにするなんていうとんでも発想は一般市民には到底できないから、ちょっと味が想像出来ない。
この子、できる……!
「はーやーせーくーん」
大声で転がっていた速瀬を呼ぶ。
――反応がない。ただの屍のようだ。
と思った瞬間に、右手が挙げられた。
ちっ。
軽く舌打ちをして、だるんだるんなお隣さんを起こしに行く。
挙げられた右手を持ち上げて、ぐいっと引き寄せた。
力に任せて立ち上がった速瀬は、『さんきゅー』と声を絞り出す。
「お前大丈夫か」
「おう、充分休んだ!」
「さあ、ごはんですよー!」
向こうでいつの間にか食事をする為に広げられたピクニック用シートの上に座って、サンドイッチの箱を開けている姫ちゃんが居た。
靴を脱ぎ、シートに座る。
箱からサンドイッチを一つ取り出して、『いただきます』と言ってから、むしゃりとかぶりつく。
パンがふわっとしていて、フライがサクッと音を立てた。
ほう。
「なにこれうっま!?」
「左に同じく!」
「ありがとうございます〜〜」
美味すぎて奇声をあげてしまった。
右隣に座った速瀬も驚愕の表情を浮かべていた。
姫ちゃんはニコニコ顔でお礼を言っている。
それもそのはず。
今まで食べたどんなサンドイッチより美味い。
なにをどうすればサンドイッチでここまで美味くなるのか。鯛か。鯛のおかげか。
くそ、富裕層め。
しかも骨が無いとは。
「骨は丁寧に抜き取ってくれましたから!」
「……ん? 抜き取ってくれた?」
「はい、鯛さんが」
は?
鯛が? 自ら? 抜き取った?
――考えないことにしよう。
とか考えているうちにパクパク食べ進めて、あっという間に終わってしまった。
名残惜しいが腹は満足したので良しとしよう。
「「ご馳走様でした」」
「お粗末さまでした!」
姫ちゃんは終始ニコニコしながら食べていた。
相当上機嫌なようだ。
そしてピクニックシートを片付けて、午後の遊びに転じ――
「あああぁぁぁ!!」
「うおっ、なんだよお前、びっくりさせんな!」
これは不覚だった。
どうしようもなく不覚であった。
「ザトウさんどこや……」
「あっ……」
ここで恐らく一致したであろう私と速瀬の現在の思考を言ってみよう。

帰り方なんだろなぁ……。

だ。
本当だよ。何やってんだよ私。
何故幼女に付き合って遊んでご飯食べてまた至極当然のように遊ぼうとしていたのか。
人差し指を顎に当てて、思考の海に浸かっている私の肩を、ちょんちょんと速瀬がつついてきた。
それに反応してぱっと顔を上げる。
「なんだよ」
「上」
「は?」
速瀬が指さすその先、上を見上げて気付く。
なんというか、そう。
――静かだ。
「いつの間に……」
私は無意識に言葉をこぼしていた。
静かだったから。
さっきまで楽しげに踊り唄っていた人魚達が、いつの間にか忽然と居なくなっていた。
「どういうこ――」
「あら残念。もうそろそろ九時でしょうか」
唐突に姫ちゃんが口を挟む。
その表情はいつも通りの笑顔で、どこか悲しそうだった。
「ごめんなさい。わたし、一つだけ嘘をつきました」
「え?」
「わたしは『姫ちゃん』じゃないです」
姫ちゃんは腕を後ろに回して、てくてくとその場を歩き出した。
「わたしは普通の一般市民ですから」
――嘘だぁ。
真鯛出しておいてよくもそんな……。
完全に疑うような顔をしていただろう。
姫ちゃんは
「本当ですよ?」
と頬を膨らませてぷんすかしてる。
やがて真面目な顔に笑顔を孕ませて、また話し始めた。
「彼らはわたしの願いに応えてくれました」
そして景色が揺らぐ。
「あなたがたともう一度、遊びたかったから」
泡のように、波のように、涙のように、揺らぐ。
「でももう時間なんです」
そこら中に生えていた木々でさえ、最初からそこに無かったかのように。
「付いてきてくれてありがとうございます。楽しかったですよ」
姫ちゃんは笑った。
灰の瞳はきらりと輝いていた。

どぷん。



ぱちり。
窓から差し込む無数の光が眩しくて、私は目を覚ました。
――目を、覚ました?
その瞬間、ばっと跳ね起きる。
私は朝に起きていたはずだ。
それが、今は『昼』だ。
肌を濡らすような湿り気も、息ができなさそうでできる空気も、目の前に広がる魚や泡も、宇宙のような少量の浮遊感も無い。
あるのはねっとりと肌にまとわりつく汗と生暖かい空気。それと自分に直にのしかかる重力のみ。
外でみーんみーんと蝉の鳴く音が聞こえる。
朝には無い音だ。
慌てて一階に降り、ようとしてガンッと足を棚にぶつけた。
「〜〜〜ッ!」
声にならない叫びをあげて、涙目で足を抱えて座り込む。
その時だった。
ぱらり。
先ほどの反動で落ちてきたのか。
一枚の写真だ。
「――!」
写真を穴が開くほど見て、今度こそ痛みを忘れ一階へ。
リビングに入って、辺りを見回す。
机の上には一枚の紙が置いてあった。
『冷蔵庫にご飯が入っています』
の文字。
親が作って入れておいたんだろう。
ということはやはり現在は会社か。
次に私は家を飛び出た。
「「あ」」
声が揃う。
お隣さんも丁度、ドアを開けたところだった。
「ねえ」「なあ」
今度は言葉は違えど、また揃った。
――なんか地味に腹立つな。
「「そっちから」」
イラ。
「殴るぞ」
「なんで!?」
よし。
揃わなくなったことを確認してから、速瀬が口を開いた。
「さっきのって、さ」
「夢じゃないよ」
「やっぱり藤崎さんも体験したんだよな!」
一人じゃなかった! みたいな嬉しそうなその頬を引っ張ってやりたい衝動に駆られつつ、私は先ほどの写真を見せることにする。
「はい」
「? ――これって」
「姫ちゃんだよ」
写真には姫ちゃんが居た。
大人には負ける小さな、それでも大きい子供。
黒い背と、白い腹。
――ザトウクジラだった。
「は、はは、そういうことかよ」
驚愕を笑いに変えて、速瀬は顔を引きつらせながら笑った。
釣られて私も笑ってしまう。
「はは、まさか気付かないなんて」
「確かに、思えばすっげぇ分かりやすい」
姫ちゃんをバックにして幼き日の二人の少年少女がピースをしている写真。
瞬間。
どこからか歌が聞こえた。気がした。
陽が照り続ける真昼間に、黒い影が覆った。気がした。
私達の横を、小さな少女が通った。気がした。
それを目で追うように振り返る。

「また、明日の朝に会おう」

ええ、また。

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