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「あ、ああ」
鬼は崩壊の音色を聞いていた。
かつて栄光を築いていた魔王の城の面影はもはや見る影もない。魔王と人王の壮絶な戦いによって生まれた崩壊の余波は城どころか、城の周辺を囲っている広大な森にまで襲ってきている。早くもっと遠くに逃げなければ、城から逃げ出した鬼たちの身にまで危険が及ぶだろう。それほどまでに王と王同士の戦いは酷烈なものだった。
壮大な城が小さく見えるほどに遠く離れた深い森の中。鬼はその場所から崩壊を止めること無い城を瞼に焼き付けるように見ていた。力なく膝から崩れ落ち、ただただかつての城を見つめるだけのその姿は哀しみに暮れていて、暗い絶望に満ちている。
同胞の一人が早く逃げよう、と鬼の腕を引くが、鬼はそれをゆるく振りほどいて泣きそうな、それでいて曖昧な笑みを浮かべた。
「まって、待ってください。大丈夫です、おれもすぐに行きますから。ちゃんと、ちゃんと行きます。だから、せめて」
「せめて、あの方の崩壊を、最期まで」
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