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「どう?どう?この姿!」
「はあ」
目の前の人型の奴と会話してる私。
どうしてこうなったのかは、数分前に遡る。

私はいつものように学校から帰ってきて、ハロウィンだからとクラスの友達や部活の先輩からいただいたお菓子の確認をしていた。しかし、ちょっと目を離した隙に、そのお菓子は半分くらいなくなっていた。
怪奇現象。普通ならそう考えるでしょう。けど、部屋の窓枠に静かに腰掛けるそれを見て、私は驚きや憤りの前に「またか」と呆れてしまった。
「どうしてエコロさんがここにいるのでしょう」
溜息するのを我慢する。以前こいつから「溜息つくと幸せ逃げるよー」とご指摘をいただいてしまったので、また同じことは聞きたくない。
「どうしてって。ジャック・オー・ランタンちゃんに会いたかったから?」
かわいらしく首を傾げられても、困ってしまう。というかかわいくないし。頭痛いし。
「不法侵入です」
「細かいことは気にしないの!」
細かくないです。かなり大事です。溜息を我慢するのが難しい。
「それでねー、今日はこれを披露しに来たんだ」

そして今に至るわけです。
エコロは一瞬で人間のような姿になると、私に「どうどうー?」と見せびらかしてきた。どう反応したらいいのかわからない。相手がどんな返事を期待しているのかもわからない。
思わず私は溜息をついてしまった。
「溜息つくとー」
「幸せ逃げるんですよね。もう逃げてますから」
こいつがいるだけで私は今確実に幸せではありません。もう逃げたってなんだっていい。さっきまで我慢した分の溜息を立て続けにつきたい。
そう思って息を少し吸い込んだ時、エコロがスッと手を差し伸べてきた。それを見て一瞬考え込んだ後、首を傾げてみせる。「それはなんだ」という意味を込めて。
「トリック・オア・トリート!」
「バカじゃないですか?」
さっき私のお菓子を大半懐にしまったくせに何をほざいてんでしょう。
「まさかそれ、仮装のつもりだったんですか?」
「さすがジャック・オー・ランタンちゃん、勘が鋭い!というわけで」
ニコニコしながら手を差し出すエコロ。しかし私もお菓子は大好きなので、これ以上あげるわけにはいかない。
だから、
「トリック・オア・トリートです」
私も負けじと手を差し出す。すると、エコロはきょとんとした後に「うーん」と唸りながら考え込んでしまった。なんだ、コイツお菓子持って来てないのか。
「ほら、トリック・オア・トリートですよ」
「い、いや。ジャック・オー・ランタンちゃんからまだお菓子…」
「さっき私から盗んだからダメです。さ、ほら。お菓子ください」
突きつけるように差し出した手を相手へとグイッと近付ける。無防備にも程があります。これは日頃からの悪行のお返しです。
「…イタズラ決行ですかね」
イヤイヤと首を振るエコロを他所に、私は彼をくすぐりの刑に処した。


END.

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