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「アルルにアミティにラフィーナにクルークに……んー」
カゴの中に入ってる色とりどりのお菓子を眺めながら街を歩く。今日はハロウィンだから、皆のところに行ってお菓子をもらいに行っているのだ。普段イイコちゃんしてるんだし、これくらい許されるはずでしょ。
「あとレムレス…は、いつも持ってるし…サタン…は、行くのも嫌だし……シェゾ、は絶対くれない……」
ユウレイコンビは絶対あっちに連れてかれる。フェーリは毒々しいものをくれそうだし。次は誰のところに行こう。
と、思ったところでふと一人の少年のことが頭に浮かんだ。
「そだ、シグのとこに行ってみよう!」
彼のいそうな場所といえば、当然森。私はそこへ駆け込むと、シグの姿を捜し始めた。

「おーい、シグー」
しかし、一向に見つからない。もっと奥だろうか。
いつの間にか日も落ちてしまって、なんだか全体的に薄気味悪い。夜の森ってこんな風なんだ。
「もう家帰っちゃったかも……」
さすがにこんな時間まで森にいるわけないか。私はくるりと踵を返すと元来た道を歩き始めた。…はずだった。
「おかしいな…いつまで経っても学校につかないや…」
森に元来た道なんてない。それに早く気付くべきだったかもしれない。感じた風が、途端に冷たいものへと変わっていった。
このまま帰れなかったらどうしよう。この森で一夜を過ごすことになるかもしれない。でも、そんなの当然お断りだ。だから早く、家に帰らなきゃ。私の足はだんだんと駆け足になっていく。
「あいたっ!」
走る、という選択肢は間違いだったみたいだ。石だか木の根っこに躓いて、転んでしまった。それと同時に持っていたカゴからバラバラともらったお菓子が散らばる。
「…こわい……」
足の怪我の痛みで動けないし、帰り道はわからないし、誰も近くにいないし。私は急に心細くなり、溜まってた感情が爆発して泣き出してしまった。止めようと思っても、涙はぼろぼろと容赦無くこぼれていく。
「………」
そうしていると、誰かの魔力の気配を感じ取った。同時にランタンの灯りがこちらに近付いてきた。
「…ジャック・オー・ランタン?」
その魔力の主は、座り込んでる私に合わせてしゃがみ込んで私の顔をランタンで照らす。
「…シグ?」
「こんなところで何してるの」
次に魔力の主―シグは私の持ってるカゴを照らす。
「…トリック・オア・トリート?」
そこから散らばるお菓子を見て理解したらしい、彼は首を傾げる。私がコクコクと頷くと、シグは後ろのアホ毛をピコピコと動かした。
「これあげる」
そう言って握らされたのは、カブトムシ用のゼリー。それを見て呆気に取られてると、急に持ち上げられる感覚がした。
「えっ…シグ!?」
持ち上げられる、というか、私はシグにお姫様抱っこされてた。何故急にこんなことになったのかわからない。目をぱちくりさせてると、にへへと彼は笑った。
「『トリック・オア・トリート』って言ってもお菓子くれないジャック・オー・ランタンが悪い。イタズラ」
……あ。うっかりしてた。
でも怪我もしてて動かけなかったし、私は抵抗せずにシグのイタズラに付き合うことにしたのでした。


END.

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