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「あ、いたー!」
道理で周りが暗いと思ったら、彼を見つけたのは夜だった。
闇夜の中ではとても見つけにくい格好をした彼―ノボリさんに向かって手を振ってみる。すると、ノボリさんはこちらを見てぺこりとお辞儀をしてくれた。
「ようやく見つけましたよ、ノボリさん!」
「わたくしを探していたのですか?」
駆け寄っていくと同時に投げられた問いにコクコクと頷く。それを見た彼はどことなく嬉しそうにしていた。
「ノボリさんノボリさん」
てしてしてし、と彼の腕を叩く。
「トリック・オア・トリート!」
「はいどうぞ」
ハロウィンお決まりの呪文を唱えると、彼はどこに隠し持っていたのか飴玉のたくさん入った小さなカゴを私にくれた。
とても嬉しいのだが、とてもあっさりしていたので、なんだかつまらない。私はどこかしょんぼりしながらそのカゴを受け取る。その様子を面白そうにノボリさんが見つめていたので、更につまらなかった。
「トリック・オア・トリート」
不意に、ノボリさんがハロウィンの呪文を唱える。
「え?」
「ですから、トリック・オア・トリート、でございます」
意味が分からないよ……
「どうされました?」
「い、いやぁ…だって……」
まさかノボリさんがこんなこと言うなんて思ってなかったから、びっくりしたし、何より…
(お菓子持ってないよー…)
本当に予想外だったから、お菓子の用意なんてしてなかった。どうしよう。
「ジャック・オー・ランタンさま、トリック・オア・トリートでございます」
「う、うん……」
どうしよう。なんかちょっとニヤついてる顔がムカつく。けどどうしよう。
「トリック・オア・トリートでございます」
「あ、あの…これ返しますから……」
そう言って先程もらった飴玉のたくさん入ったカゴをぷるぷると差し出す。
「ダメです。…もしや、わたくしの分のお菓子をお忘れになったのでは?」
わかってるくせに。わかってたくせに!ああ、なんかすごくムカつくし悔しいよ!でも言葉も出ないよ!
「ですが、安心なさってください」
ちょっとだけ涙目になってると、ポンとノボリさんの手が私の頭に置かれた。それに釣られて彼を見上げると、微笑みながら頭を撫でてくれていた。
「あなたさまが、わたくしの何よりのお菓子でございますから」
…はい?
「えっ、あの、ノボリさん?」
「おや、イタズラの方をお求めでしたか?」
「いやいやいや!」
ちょっと待った!これじゃあさしずめ…
「さしずめトリック・アンド・トリート!?」
「出発進行!」
「あああああああッ!?」
テンション高めのノボリさんに拉致られた。誰か助けろ。


END.

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