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「そういえば今日ってハロウィンかー」
さっきの幼稚園児にも無邪気な顔で「トリック・オア・トリート」って言われたんだよな。ここはバトルサブウェイ、しかもダブルトレインの中だっていうのに、子供ってこわい。たまたまチョコを持ってたから、なんとか事無きを得たけども。
とにかく、次はサブウェイマスター戦だから気を引き締めないと。そう思って扉を開いたその時。
「トリック・オア・トリート!」
あぁ、忘れてた。ダブルトレイン担当のサブウェイマスターってあのクダリじゃないか。
「ねぇ、トリック・オア・トリート!」
「はいはい。とりあえずバトル頼みます」
「トリック・オア・トリートに答えてくれたら考える!」
「アンタ…仕事サボってまでやることなの?それ」
しつこいクダリをご最もそうな言葉とともに背伸びしてズビシと額をつっついてやると、彼はすごすごとバトルの定位置へと移動していった。真面目に仕事しろよ。まさか今日ここまで来た人全員にそれ言ってきたのだろうか。それを考えたらノボリさんの頭痛の原因にも成り得る。
とりあえずバトルはできるようなので、私はバトルに集中することにした。

「あらら、負けちゃった」
今回は私の勝ちだ。クダリはポケモンをボールに戻すと椅子に静かに腰掛けた。私もそれを見ると、クダリの隣に腰掛ける。まだ駅まではだいぶ掛かる。その間ずっとこいつと一緒にいなくちゃならない。
はぁ、と深く溜息をつくと、スッと隣から板チョコが差し出された。
「ハロウィンだから。バトルもすごく楽しかったし」
クダリを見上げると、いつもの貼り付けたような感じの嫌味ったらしい笑みではなく、ニッコリとした優しい微笑みを彼は湛えていた。
それに思わず見とれながら板チョコを受け取ると、頬に妙な感触。というか、クダリの顔が近い気がする。
クダリはゆっくりと離れていった。そして私の顔をジーッと見つめる。
「あの…今何かやった?」
「うん。ほっぺにちゅーした」
私の質問にサラッと答えると、クダリは帽子を脱いで私の頭にかぶせる。
ほっぺにちゅーとは何か。それはつまり、私の頬にクダリがキスしたということである。私はそれを理解するのに1分間の時間をかけてしまった。そして、理解すると同時にボッと顔が熱くなるのを感じた。
「なっ…なっ…!!」
「ふふ、ジャック・オー・ランタンかわいい」
そのままぎゅーっと抱きしめられる。何この状況。私が何したって言うの?何これ。私がバトルに勝ったのがいけなかったの?
顔を真っ赤にさせながらフリーズ状態の私にクダリは教えてくれた。
「トリック・オア・トリートに答えてくれないからこうなる」
すりすりと頬ずりされる。やめてやめて私ポケモンじゃないから。
「ジャック・オー・ランタン大好き」
さっきもらった板チョコが熱でとろけちゃうよ。


END.

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