――― 来たる本日の祭典。その名もハロウィン。 だから私はジャック・オー・ランタンの被り物をかぶり、黒いローブをまとって街中を練り歩いていた。「トリック・オア・トリート」の文字が書いてあるプレートを掲げていれば、親切な人なら、持っているカゴにお菓子を入れてくれる。なんて便利なシステムなんだ。 もうカゴの中にはたくさんのお菓子が入っていた。これくらいでいいかなと思いながら家に帰ろうとした時に、そいつはやってきたのだ。 「む?この魔力は…ジャック・オー・ランタンか?」 出た。緑色の変態。 私は被り物の目の部分からその人物を見上げる。緑色の髪をした、ツノの生えた長身の男は紛れも無くサタン「さま」だった。 「トリック・オア・トリート、か。なるほど、だから変な格好をしているのだな」 被り物の上からぽんぽんと頭を叩かれる。こいつからもお菓子をいただこうか。私はプレートをゆさゆさと揺さぶってアピールしてみる。彼もそれに気付いたらしく、改めてプレートをまじまじと見つめた。 「ふーむ。…悪いが、お菓子は持ってない」 なんて準備の悪い奴なんだろう。今日がハロウィンであることは彼だって知らないわけじゃないはずだ。それとも持っていたのだが、全部アルルにあげてしまったとか。彼なら有り得ない話じゃない。 「だから存分にイタズラしてこい」 では、イタズラ決行ということで。 …ん?ちょっと待て。何故お花が舞ってるエフェクトが見えるんだ? 「さぁ、来るがいい」 まさか。 「イタズラを期待してるの?」 「何の話だ?」 いや、隠しきれてないってば、そのちょっとニヤニヤしてる表情。こいつ、前から変態だと思ってたけどここまでとは。 しかし、イタズラとは何をしたらいいのだろう。くすぐり…は単純すぎるか。どうせだからもっとえげつないイタズラをしたいものである。 とりあえず、げしっと蹴ってみる。 「…どうした?痛くも痒くもないな」 しかしサタンは笑みを崩さない。ニヤニヤ。ニヤニヤ。うわぁ、ウザい。 今度は腹を狙って蹴りを入れてみる。 「どこを狙っている?」 が、すぐに避けられた。まだニヤニヤしてる。すっげぇウザい。こいつ、私をからかって遊んでる。くそっ、ハメられた感がする。 「もっとイタズラしてこい」 この挑発に私はまんまと乗ってしまった。乗ってしまったと同時に、プツンと何かが切れる音がする。 「ん?プツン?」 それはサタンの耳にも届いたらしい。 心の中にあった冷たい水がみるみるうちに沸騰していく。サタンからは被り物が邪魔で顔は見えないだろうが、きっとそこも真っ赤になっているに違いない。 「……ば、」 「ま、まさか」 「ばよえーん!!」 「ぎょえーーーーー!!?」 私がそう唱えると、サタンの頭上におじゃまぷよが大量に降ってきた。今まで調子こいてたサタンは見事にそれの下敷きになり、ばたんきゅー…と目を回してしまった。 「…イタズラ完了」 それをちゃんと確認するために、私はジャック・オー・ランタンの被り物を脱いで息を吐いた。 END. 戻る |