――― 「本日はバトルサブウェイ、マルチトレインにご乗車いただき、誠にありがとうございます」 目の前の黒い車掌はそう言って帽子をかぶり直した。 「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します」 車両の壁には洗っても落ちない、いや、落とすことを敢えてしない真っ赤な血痕。 「自己紹介もこれで良いでしょう」 彼は刀の柄に手をかける。 「あなたの終着点は、この車両に御座います」 私の相方は前の車両で倒れた。だから、一人でやるしかないのだ。 まず繰り出された居合を私も自分の刀で受け流す。 しかしノボリの攻撃はそれだけでは終わらない。そのまま雷のような速さで私の懐へ入っては、腹を斬りつけてくる。 「…!」 それを咄嗟に受け止めるが、体格差も相俟って一撃一撃が重い。完全に受けきれず、後ろへと後ずさった。 すると、遠くの方で何かが回転する音が聞こえた。 その音はだんだんこちらへと近付いてくる。 そういえばここはマルチトレイン。二人一組でバトルをする電車。 「どーん!」 その拍子抜けた声とともに車両の扉が吹っ飛んだ。私は思わず振り返ってその声の主を確認する。 「ぼく、クダリ。サブウェイマスターしてる」 ニィ、と三日月のように吊り上がった口。目の前のノボリとは色違いの真っ白な車掌がチェーンソーを持ってこちらに突っ込んできていた。 こんなのを目の前にして、避けない方がおかしい。私は素早く横に避けると体勢を立て直す。 「前の車両できみの相方、死んでた。きみもすぐに相方のところに連れてってあげる」 「一人では寂しいでしょうしね」 依然と笑みを崩さない白い車掌と、相変わらずの仏頂面を晒す黒い車掌。 ヒュッと刀を振るう音。ギュインギュインと音を立てて回るチェーンソーの音。 この車両に逃げ道なんてない。駅までもまだまだ掛かる。 このまま戦う?それとも、鬼ごっこをする? 迷ってる暇はなかった。 END. 戻る |