――― 「ノボリ!ノボリ!」 シングルトレインから下車してきたノボリを見つけると、クダリはすぐに彼の元へと駆け寄る。 「どうかしましたか?」 「今日ね、面白くてかわいいコが来た!」 「そうですか」 ノボリはいつも通り難なくかわす。というのも、彼自身そういう話に興味がないからだ。 「それより、その炬燵は撤去してくださいね」 「えーっ」 「本日はバトルサブウェイご乗車、ありがとうございます。わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します」 「いや、知ってる」 この口上を聞くのも二回目だ。ダブルトレインのクダリのことを知ろうと思いダブルバトルの練習をしていたが、やはりこのちょっとした緊張感にも慣れておきたくてシングルトレインへと乗車したのだ。プレッシャーでこっちのPPまで持っていかれてしまってはお話にならない。 それにしても、本当に似てるなー…本当に双子なんだろうな。一卵性双生児なんだろうな。 「あの…どうかなさいましたか?わたくしの顔に何かついておりますか?」 私がまじまじとノボリさんのことを見つめていると、彼は鏡を取り出してそれを凝視し始めた。 「あ、いや、違うんだ。クダリと本当によく似てるなー…と思って」 私は思っていたことを素直に話した。すると、ノボリさんはハッとしたような顔で鏡をしまい込む。 「クダリのお知り合いでしたか」 「ん、こないだダブルトレインで一回バトルしたきりですかね。扉を開けたら炬燵で和んでたから、一喝してやったんです」 この時ノボリは直感した。 この子がこないだクダリが言っていた『面白くてかわいいコ』なんだと。 「そうでしたか。それはありがとうございました。では、バトルの方を始めてもよろしいでしょうか?」 すっかり思い出話になんてしまった。私は「はい」と頷くと、モンスターボールを構えた。 「うあーっ、負けたー!」 彼女は負けるとすぐに椅子にどっかりと腰を落とした。まるで張り詰めていた糸がぷっつりと切れてしまったかのように。 このお客様がこないだクダリが言っていた『面白くてかわいいコ』。確かにかわいらしく、それでいて面白いことを言うお客様でした。 「お疲れ様でございました。次の停車駅まで、どうぞごゆるりとなさってください」 わたくしは反対側の椅子へと腰掛ける。すると、彼女は驚いたように目を見開いてわたくしの方を見つめているではありませんか。 「どうか…なさいましたか?」 「あー、いや、隣に来てもいいんですよ?」 そう言って彼女はぽふぽふと自分の隣の席を叩く。 「…左様でございますか」 わたくしは言われるままに彼女の隣へと移動した。 …何故でしょう。無性に彼女のことが、知りたくなりました。 「お客様」 足をぶらぶらさせている彼女の方へ顔を向ける。呼びかけに応じた彼女と自然と目が合った。 「あなたさまの実力、まだこんなものではないはずです。またシングルトレインに来てくださいまし。いつでもお待ちしております」 知りたかった。興味を持つのに理由なんていりませんでしたし、もちろんバトルなんて口実にございます。 彼女はニッコリと笑うと、「じゃあまた来ます!」と元気に答えてくれました。 END. 戻る |