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あれから一週間くらいが経った。
けれども、何も思い出せない。一向に元の世界に戻る術も見つからない。
歯がゆい。りんごは覚えてるのに、私はまったく覚えていない。
そのことがとても悔しいし、申し訳なかった。
今日の分の復習をして、ベッドに寝転がる。
目を閉じ、その暗闇に身を委ねながら、私は眠りに就いた。

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すずらん商店街にある神社。
今日はそこで夏祭りが開かれる。
年に一度の夏祭り。私は何日も前からこの祭典を楽しみにしていた。そりゃ、あまり大きなお祭りではないけれども、『祭』という単語だけで心がウキウキしてくるような、そんな感覚。だからばっちり浴衣を着て、待ち合わせの30分前からここにいる。
さすがに早く来すぎた?でも彼らを待つ時間はそんなに苦にならなかった。
「おや、ずいぶん早いんだな、ユリアくん」
「りす先輩!」
最初にやって来たのはりすくま先輩。通称りす先輩。ふざけてりせぱと呼んだりすることもある。りすのような、くまのような、そんな風貌の彼を見つけると一礼する。せっかくの夏祭りなのに、今日もこの人は白衣姿だった。
「りす先輩こそ早いじゃないですか。まだ30分前ですよ?」
携帯の時計を確認した後、首を傾げる。すると彼は得意気に両腕を組んだ。
「何事も早い方がいい。善は急げだ」
「善…?」
あまり関係ない気がする。
「とにかく、ユリアくんの浴衣姿を見たのは間違いなく私が最初というわけだ。急いで来て良かったとは思わんかね」
「は、はあ……」
言いたいことがいまいちわからないが、女の子の浴衣姿目的でこの人はここに来たんだろうか。まぁ、確かに普段と違う格好の女の子っていうのはかわいいものらしいけど。
りす先輩がそれでいいならそれでいいか。私は半ば強引にそう決着をつけると電柱に寄りかかって残りの二人を待つことにした。
「それにしても、りんごくんとまぐろくんは遅いな」
「私たちが早く来すぎたんですよ」

空が夕焼け色に染まってる。時刻は17時50分。もうすぐ待ち合わせの18時。
「あっ!ほら、もう二人とも来てるよ!急いでまぐろくん!」
「そんなに急かさないでよ、それにあんまり急ぐと転ぶよ?」
遠くの方から聞きなれた声が聞こえる。そちらに目線をやると、その声の主がこちらに近付いてきていた。
「ユリア!りす先輩!お待たせしました!」
満面の笑みで手を振るその子はりんご。彼女も私と同じく浴衣を着ていた。
「もう、子供みたいにはしゃいじゃって★」
やれやれ、と肩を竦めながらも楽しそうにしている男の子はまぐろくん。彼は甚平を着てる。結局いつもと同じなのはりす先輩だけだ。
この時時刻は17時55分。神社の方から太鼓の音が聞こえた。
「さっ、行こう?」
りんごがはしゃいだ様子でその音が聞こえる方向、神社を指差す。彼女もきっと、このお祭りを楽しみにしていた人間の一人なのだろう。私もはしゃぎたくてうずうずしながらコクコクと頷くと、りんごと手を繋いで神社へと向かった。
「ホント、女の子ってこういうの好きだよね★」
「うむ。元気なのはいいことだ」