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本当なら今日は、クリスマスパーティの予定だった。しかし、それは行われない。クリスマスを祝う気分じゃなかった。
赤毛の少女は自室でただ一人、机に乗ってる写真立てを見つめた。自分と、幼馴染と、先輩と、つい先日亡くなった友達が写っている。
不慮の事故。それで片付けられたらどんなに楽だろう。でもあれは事故なんかじゃない。明らかに自分勝手な理由で、彼女も、自分も、突き落とされたのだ。
「どうしてユリアなんだろう……」
身近な人が、身近な友達が、『誰かを落としてみたかった』なんて理由で殺されてしまうなんて考えたくもなかった。でも、そこから目を背けることは、彼女を殺した人を見逃すことになってしまうから。
だから、少女は現実を受け入れるしかなかった。それがどんなに辛くても、どんなに苦しくても。
(受け入れられません…)
それがどんなに難しいことか、少女もよくわかってた。でも、彼女の死を受け入れなければ、……
もう、少女の心はパンク寸前だった。
「会いたい…会いたいよ……もう一度だけでいいから……」
何回涙を流しただろう。それを数えるのは徒労にしかならなかった。一緒に笑った日々も、一緒に泣いた日々も、ふざけて遊んだことも、勉強会をしたことも、涙のように溢れては溜まっていく。全部が全部、遠い日のような、つい最近のことのような、不思議な感覚に陥る。
今日はクリスマス。けど、サンタは叶えてくれない。

「りんごちゃんだー」
そんな中、少女の名を呼ぶ存在がいた。少女―あんどうりんごはその声のする方へ目線を移す。
「エ…コロ…?え、え、ええええええええ!?」
思わず椅子から転げ落ちる。その影に、りんごは見覚えがあった。それは間違いなく、ちょっと前にこのすずらん商店街で騒動を起こした張本人。黒いちょっと気味の悪いぬいぐるみのようなそれはエコロ。
「また何か企んでるの!?」
「まーまー落ち着いて」
ごしごしと洋服の袖口で乱暴に涙を拭うと、ビシリとエコロを指差す。そしてそれをエコロが宥める。なんだか奇妙な光景である。
「りんごちゃん、ボクねぇ、いいもの見つけちゃったんだ」
りんごは直感する。この影の『いいもの』とか『いいこと』にはろくなことがない。それは前回の事件で実証済みであった。しかし、今回の『いいもの』は格が違った。

「ユリアちゃん。彼女は生きてるよ」

りんごは耳を疑った。自分の友達、ユリアが生きている…?
しかし、彼女の葬式は先日終わった。ニュースでも人身事故としてほんの少しだが挙げられた。彼女が死んだという証拠は嫌というほど見せられたのだ。その彼女が、生きている?
「バカなこと言わないで。ユリアは…『死んだ』んですよ……」
自分で言ってて悲しくなった。認めたくない、こんなの。しかしその心境をエコロは見透かしていた。
「認めたくないよね、そんなの。でもね、認めなくていいんだよ!だってユリアちゃんは『生きてる』んだもん!なんなら証拠見せてもいいんだよ?」
ユリアが『生きてる』証拠。その言葉にりんごはピクリと反応した。
エコロは『ユリアは生きてる』と断言してみせた。どこにそんな自信があるのか疑問にも思ったし、何より、ユリアが生きてるのをこの目で見ないことには受け入れることなんてできなかった。ましてやあのエコロの言うことだ。簡単に信じられるわけない。
ニヤリと黒い影は笑う。そして手を前に伸ばすと、丸い形の黒い玉を生成した。
「覗いてごらん」
一瞬躊躇ったが、覗くことで彼女の生きてる姿が見れるなら……そう思い、りんごは影に言われるままに、その玉を覗き込んだ。