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歩き始めて程なく、木々で塞がれていた視界が晴れて街が見えてきた。少年は一足先に森を抜けると、森の近くにある建物を指差した。
「学校」
私も小走りで少年の傍へと駆け寄ると、その建物、学校を見上げる。
学校…というよりは遊園地なんかにあるお城のイメージがつきそうなその建造物。赤くて丸くて目がついてるもののオブジェが一層目を引く。
「キミが通ってる学校?」
再び少年に視線を戻すと、彼はコクリと頷いた。トンデモ学校というイメージしかつかないこの学校に通わせるとは、物好きな親もいたものである。
「あっ、シグ!何してるの?」
「アミティ」
その学校から一人の少女が出てきた。赤いニット帽を被った、見た目元気っ子そうな少女はどうやらこのおっとり少年の知り合いらしい。
「この人誰?」
少女―少年は『アミティ』と呼んでいた―はようやく私がいることに気付いたようで、私を指差しながら不審者を見るような目でジッと見つめてきた。その目はやめてほしい、本当に。
「迷子」
「えっ!?迷子なの!?」
少年―アミティは『シグ』と呼んでいた―がまたごく簡潔に私の説明をすると、アミティは素っ頓狂な声を上げて私を見つめ直す。
「本当にただの迷子〜?不審者とかじゃない?」
「ち、違うよ。本当に迷子だよ…」
それは純粋な目線ではなく、やはり不審者扱いする時の目線。ひどく心地が悪いこの目線を受け入れることができず、思わず目線を逸らす。するとアミティはズビシッと効果音がつきそうな勢いで私を指差した。

「じゃあそれを証明するために、勝負だ!」
「へっ!?」
「いっくよー!フレイム!!」
アミティは勝負を宣言すると同時に私を指差した手を上に挙げる。そして『フレイム』と叫ぶとその手から火の玉が二つほど出てきて私の足元へと向かってきた。
「あっぶな!」
いきなり火の玉が飛んでくれば、避けるのは至極当然のこと。素早く一歩後ろに跳ねるように避けて再びアミティの方へ視線を戻すと、悔しいのか驚いたのか、或いは両方の感情が込められた表情をした彼女がいた。
「ぐぬぬ…、でももっといくよ!ブラストビート!!」
再びアミティが右手を高く挙げると、今度は見えない何かが私の左肩を直撃した。思わず声にならない声を上げて地面にどさりと倒れ込む。
「いててて…今のは何…?」
左肩をさすりながらそれを放ったアミティを見る。ふふん、と得意気になりながら私を見下ろす彼女。
「これで最後にするよ!アクセル…アクセル…!!」
今度は手を地面に向けてクロスしながら『アクセル』と3回ほど唱えている。とてつもなく嫌な予感がした。もしかしたら死ぬかもしれない。なのに、驚くほど頭の中は冷えきってどこか変に冷静だった。それは多分、『ここで死ぬのだから諦めろ』と決めつけてしまっているからかもしれない。
「いっくよー…エクリクシス!!」
クロスの解かれた両手が私に向けられる。もう終わった…私の人生、あっけなく終・了。
そう思った時だった。
「セレスト!」
私の背後で静観していたシグが先程までとは違う凛とした声でそう言い放った。それと同時に、アミティが弾かれたように後ろへと吹き飛んだ。
「あいったたたた…ちょっとシグ!乱入してこないでよ!」
むくりと起き上がったアミティは再びズビシッと効果音がつきそうな勢いで、今度はシグを指差した。
「アミティ、やりすぎ」
「だ、だってぇ〜…不審者かもよ!?」
やっぱりまだ不審者だと思われてるんだ…。さすがに傷付くよ。
シグはゆっくり私の前に出てくると、ふるふると首を横に振った。
「反撃、しない。普通は、反撃してくる」
そうだ、普通はこの場合反撃するはず。しかし私には為す術なく回避したりすることしかできなかった。それが何の根拠になるんだと問われれば答えに詰まるだろうが、どうも目の前の彼女は単純な思考回路らしい。
「あっ、そっか!じゃあ本当に迷子さんなんだね!っていうか…ごめんなさぁ〜いっ!」
慌てて彼女は私の方に駆け寄ってくると何度も頭を下げた後、私に手を貸してくれた。話せばわかる子で本当に良かったと思う。そしてシグがいなければ私はマジで死んでたかもしれない。


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