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私は今まで練り込んでいた魔力を放出していく。
魔力の温存。私はこの世界ではあまり魔力のない方だ。だから、相手がある程度充分に戦える魔力を大幅に減らしてからではないと、なかなか攻撃ができない。…ラフィーナやルルーのように体術メインで戦うような相手には効果はないけれど。
「フレイムアロー!」
炎の矢を五本ほど生成すると、フェーリに向かって飛ばす。すると彼女は慌てたようにダウジングロッドを構えた。
「リ…リフリネイション!」
その声色からして、魔力もそれほどは残っていないようだ。
「きゃっ!」
反撃しきれず、直撃は免れるものの傷を負うフェーリ。
…やっぱり、私の攻撃で誰かが傷付くのは見てて気持ちよくはない。そんなお情けはいけないことはわかっていた。だけど、今目の前にいるのは私と同じ人間だ。だから、一気に決着をつけてしまいたかった。
私は高々と手を挙げる。もう、これで終わりにしたい。
「アーティフィシャルレイン!」
降り注ぐ。雨が。

「ここの勝負は…ユリアさんの勝ちみたいですね」
ボロボロになって膝をつくフェーリと、傷だらけのまま立っている私がフィールドにいる。
アコール先生はその状況を素早く判断すると、審判を下した。
勝った。…勝ったけど。やっぱり気分はあまり晴れない。
「やったー!すごいよユリア!!」
「うわぁっ!?」
私が沈んだ表情をしていると、りんごがガバッと後ろから私に抱きついてきた。
これからこんなに人を傷付けながら勝たなきゃならないと思うと、正直心苦しい。でも、そうしないと勝ち取れないものがあるなら、やっぱりそうしなければならないだろう。
「何よ、勝ったのにそんな浮かない顔して」
そうしていると、フェーリが私の方によろよろと歩み寄ってきた。
「…ひとつ、聞いていいかしら」
彼女は私を見上げる。その目は、あの嫌味ったらしいそれではなかった。
「運命を打ち破ると言ったアナタが、なんでさっきは運に頼ったのよ」
さっき、というのは、多分『グランド・トライン』を運で避けた時のことだろう。
私はクスッと笑う。
「運命に従うか従わないかは完全にいつも自由だからだよ」
それを縛るモノは何もないんだから。
そして彼女もクスリと笑う。
「…そう」


第六話『ウンメイナのダカラ』 終

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