―――

青い空、白い雲、綺麗な海。
まさしく絶好の海日和だ。
「ひゃっほーう!」
水着に着替えたりんごが海に向かって走りだす。結局りんごが一番楽しみにしていたのだろう。私も水着に着替えるとりんごの後を追いかける。
「すごいよ、見てユリア!海がこんなに綺麗だよ!」
遠くから見るとその海は本当に青く見えて、近付くにつれてそれは澄んだ透明の水に見えていく。
元の世界では冬だが、こちらの世界の季節は今は夏だ。絶好の海日和なのである。
「冷たっ」
パシャッ、と片足突っ込んみるとひんやり冷たくて気持ちよかった。なので一瞬だけ海水の浸かるのを躊躇してしまったが、その隙にバシャッと冷たい海水を身体に掛けられる。
「隙ありだー!」
「ちょっ、りんご!お、お返しだー!」
りんごとそのまま浅瀬でバシャバシャと海水の掛け合いをする。定番といえば定番のやり取りだ。
記憶を取り戻したからか、この感覚がとても懐かしく、愛おしい。これでまぐろくんやりす先輩がいたら完璧だろうな…

「この辺でいいか」
そう考えてる時に、サタンが浜辺の真ん中辺りにシートを敷きビーチパラソルを突き刺した。
…この世界で一番お世話になってる彼との思い出があってもいいはずだ。この世界に来た時から今まで、彼にはずっとお世話になっていた。住居然り、魔導学校入学の手続き然り、魔力然り、何より命の恩人。
お礼だけでは正直足りないくらいだ。いつもふざけたことばかり言ったりやったりしてるのに……
「サタンもおいでよ!」
シートの整備をしていた彼に向かって手を振る。『『さま』をつけろ!』というお決まりのセリフが飛んできたが、無視したら拗ねて再びシート整備に励み始めた。
「サタン来ないなぁ」
「ユリア…もしかしてサタン『さま』のこと気になってるの?」
ふぅと溜息をついて挙げていた手を下げると、りんごが意味深な感じで尋ねてきた。
「気になるというか…日頃からお世話になりっぱなしだし」
率直に答えると、チッチッチとりんごが指を振る。
「そうじゃなくて、異性としてはどうなのってこt」
「はぁいッ!?」
思わずセリフを遮ってしまった。な、なんて爆弾発言をするんだ、この子は…!!
「どうしたんだ?」
私の女らしかぬ絶叫が耳に入ったのか、サタンがこちらを向いて尋ねててくる。
「いや、なにも」
私はりんごがまた爆弾発言をしないように、彼女の口を自分の手でふさぎながらブンブンと首を横に振った。それを見た彼は依然と頭に『?』マークを浮かべたままだったが、やがてどうでも良くなったのか、整備したシートの真ん中にどっかりと腰をおろした。
それにしてもこの子はなんてことを私に尋ねたんだ。私はサタンのことはどうとも思ってない。ただ、とても世話になっている人、という認識、
「………」
…果たしてそう言い切れるのだろうか?実のところ、言い切る自信はない。意識してない、と言えばそれは嘘になる。改めて考えてみると、変だ。変、だ。
その時、バシャッと再び海水をかけられた。
「ほら、らしくないぞ!ユリアは笑ってなくちゃ!」
慌ててりんごの方に目線を戻すと、彼女は優しく笑いかけてくれた。