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「でも、帰る方法って本当にあるのかな?」
アミティが切り出す。確かに、そう問われると気になるところではある。サタンが『うーん』と唸りながら考え始める。
「元の世界に帰る方法は必ずあると思ってていいはずだ。ここに来れたんだからな。だが問題は…『既に死んでしまっている』という事実をどう書き換えるかだな」
そういえばそうか。
私は元の世界では死んでいることになっている。元の世界に帰るためには、その事実はなくさなくてはならない。もし私がそのまま帰ってしまったら…死んだ人間が生き返ったとか、実は幽霊かもしれないと変なことになってしまうかもしれない。というか確実になるだろう。
四人揃って考えこむ。だが、一向にいい案は浮かばなかった。

アミティがふと学校の前にある掲示板に目をやる。そして『あっ』と声を上げた後、そこまで駆けていく。それに釣られて私たちもそこに集まった。
「ねぇ、これ!これはどうかな!」
アミティが一枚のポスターを指差す。そこには『秋の大魔導大会』と書いてあった。そして、こうも書いてある。
「優勝者には、どんな願い事も叶えてくれるメダルを授与します…だって!?」
実にタイムリー。この大魔導大会は、主催元がプリンプ魔導学校、参加資格は魔導が扱える者なら誰でもオッケー。形式はトーナメントで優勝者にどんな願い事も叶えてくれるメダルを授与、ということらしい。
ということは、これで私が優勝したら…元の世界に帰れるかもしれない。向こうで私が死んでる事実をどう書き換えるかは一旦置き、これは大チャンスだ。
「とにかく、これに優勝したら…もしかしたら元の世界に帰れるかも」
そのためには優勝しなければならないのだが。ここ一週間でかなり魔導の腕は上達したと自分でも思っているが、果たして私に優勝なんてできるのだろうか。
「安心しろ、私がしごいてやる。必ず優勝して元の世界に帰るんだ。向こうの世界の出来事を書き換える手段は…私が調べておいてやる。だからお前は魔導の腕を磨くのに時間を費やせ」
不安になっていた私をサタンが励ます。こういう時だけでも頼りにしてくれとでも言わんばかりに。
「あ、それなら私も手伝います。私は魔導とか使えないので、その方法を調べるの、私にも手伝わせてください」
りんごが進言する。それにサタンが『ああ、ありがたい』と返し微笑んだ。
なんだかお世話になりっぱなしだ。その恩返しをするためにも、彼らの期待に応えなくてはならなかった。
するとアミティも『はいはい!』と手を挙げる。
「あたしも魔導の修行だったら手伝うよ!あたし自身も魔導の腕を鍛えられるし、何よりユリアにがんばってほしいもん!」
そう言って満面の笑みを私に向けてくれた。
「ありがとう…皆、ありがとう…」
皆の好意に、思わず目頭が熱くなる。でも、それをグッと堪えて三人を見る。泣くのは、優勝してからにしよう。
そのためには、たくさんたくさん魔導のことを知って、もっともっと魔導の腕を上げないと。
目の前で応援してくれてる人たちのためにも、元の世界で私の帰りを待っててくれてる人たちのためにも、私はがんばらなくては。
「でもがんばりすぎは絶対ダメ!」
「…あー、うん」


第五話『キオクのカナタ』 終

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