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そこでハッと目が覚める。
外では鳥がチュンチュンと鳴いていた。ということは、もう朝か。
さっきのは、夢…?とても幸せな夢だった。布団に包まりながら、夢のことを思い出す。
りんごと、まぐろくんと、りす先輩と一緒に夏祭りに行った夢。まぐろくんが金魚を10匹もすくったのには驚いちゃったな。りす先輩が何気に射的上手かったし、りんごの浴衣姿もかわいかった。
その後四人で打ち上げ花火を見た。ドーンとお腹に響くその音が未だに脳裏に焼きついてる。とても夢とは思えないほどの臨場感。

…あれ?

「りんご…まぐろくん…りす先輩…」
私の中の何かが弾けた。
蘇っていく。記憶が溢れてくる。
思わず寝ている上半身を起こした。その瞬間にポタポタと布団に液体が落ちてきた。それを見て、目に手をやる。
「……あ」
無性に涙が溢れてくる。何故かはわからないけど、涙が溢れては布団に染みを作っていく。
でも、それよりも頭の中で展開されていく日常的シーンが流れるように再生されていくのが、気になって仕方がなかった。

りんごと一緒に学校に行く。
まぐろくんと一緒にけん玉をする。
りす先輩と一緒に科学的実験をする。
四人で購買で買ったパンを食べる。
放課後は部室で他愛もない話をしながら物理部として研究に勤しむ。
それが終わったら皆で寄り道をしたりしながら帰る。

何でもない日常。でも、それは私がいつも体験してる日常。大切で、そんな毎日が宝物だった。四人一緒にいると、楽しさも四倍になり、悲しさは四分の一になる。
もし私が転校したって、それは変わらない。変わらず友達でいようと、そう約束した。
なのに、なのに…!!
『記憶喪失』なんてもので、それを忘れてしまうなんて!!

「ごめ……ごめんなさい…!!」
思い出した。仲間たちと一緒に過ごした何でもない日常を。
「ユリアー?どうした、今日はお寝坊さんだな」
数回のノックの後ガチャリと扉が開き、サタンが入ってくる。そして、ベッドの上で泣きじゃくっている私見てぎょっとすると慌てて駆け寄ってきた。
「ど、どうした!悪い夢でも見たのか?」
私も慌てて涙を拭うと、サタンに微笑みかける。
「…ううん、とっても幸せな夢だった。…あのね、サタン」
いつもなら『『さま』を付けろ』と言ってくる彼だが、それは今日は言われなかった。私は深呼吸すると、彼を見る。
「思い出せたみたい、なんだ。死ぬ前のこと。まだ少し欠けてる感はあるけど……」
それを聞いたサタンがパッと表情を明るくさせる。そしてまるで自分のことのように喜んだ。
「おお!良かったではないか。ここ最近のユリアは元気がなかったからな。それで元気を出してくれるなら何よりだし、記憶が戻ってきたことは喜ばしいことだ」
そう言って私の頭を撫でる。
そうだ、りんごに報告しに行かないと。でも、これから学校があるから、放課後になっちゃうな。
「サタン、まだりんごには秘密にしといて?私の口から言いたいの」
「任せておけ。会っても絶対に言わない。約束しよう」