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それを告げたのは12月に入ってからだった。
「転校って…本当?」
放課後の部室。りんごが目を見開きながら私に再度問いかける。まぐろくんもりす先輩も同じことを聞きたいようで、私の方をずっと見ている。
「うん…お父さんの仕事の都合で、転校することになったの」
突然だった。私だって、驚いた。ここから遠いところで、この学校には通えないらしい。

まだやりたいこと、たくさんあるのに。もっと三人のこと、知りたいのに。
だけど、お父さんを責めるわけにはいかなかった。転勤なんて、よくあることだし。
でも、本当に突然のことだった。心の準備もできてなかった。
ずっと、四人で過ごせると思ってたのに。

「そっか。…残念、だなぁ」
りんごが俯きながら『そっかそっか』と呟く。
ごめんね。…ごめん。そりゃ驚くよね。
「でもさ、一生のお別れってわけじゃないんだしさ」
まぐろくんが不意に告げる。その場にいる全員の視線がまぐろくんに向けられる。
「電車で会いにいけるじゃん?また四人で遊ぶことはできるさ」
そう言ってまぐろくんは、私とりんごの頭を撫でた。そりゃあそうだろうけど……
「でも、やっぱりお別れは寂しいよ…」
会いにいけるからいい、という問題ではなかった。そこでまぐろくんは『しまった』と自分の軽率な発言に気付き自分の口を手で覆う。
そして『うーん…』と両腕を組んで唸り、やがて何か閃いたようにポンと両手を合わせた。

「じゃあ思い出作り、しよっか★」

思い出作り。そうやって提案されたのが、冬休み入ってすぐのクリスマス会だった。りんごの家で一日中騒ぐ。これからのことは一先ず忘れて、今を思いっきり楽しもうという計画。
本当に、この人たちは……
この人たちは、私には勿体無いくらい優しい。
その優しさに思わず目に涙が溜まる。…でも、今は泣くのはやめよう。
私は改めて三人を見ると、微笑みながらどの計画に同意を示すためにコクリと頷いた。


もう少しだったのに。
もう少し生きられたら、思い出作りも、お別れも言うことができたのに。
誰かの身勝手な理由で私は死んでしまった。

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