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「でも驚いたよ、まさかユリアが…この世界に来て生活してるなんて」
街の広場に移動してくると、りんごはユリアに笑いかける。
「りんごも来たことあるの?」
「うん。ちょっとしたトラブルでね」
すずらん商店街での騒動でエコロを止めるために、この世界に移動してきたことがあった。あの時は本当に大変だったな、と思いながらりんごは苦笑いする。
そういえばエコロは一体どこに行ったんだろう。また何か企んでなきゃいいんだけど。
「…こわく、なかった?」
「え?」
「こっちに来る時。だって世界が違うんだよ?りんごは…私みたいに死んでここに来たわけじゃないでしょ?」
ユリアは死んで、何もわからないままここに来た。しかし、りんごは違う。意識のあるまま時空を超えてやってきた。それにはやはりリスクは付き物だし、相当な覚悟も必要だった。
「私の覚悟はそんな半端なモンじゃないよ。絶対にユリアを連れ戻すって、そう覚悟したんだもん」
「それだよ。絶対に連れ戻すって、どこからそんな自信が……」
ユリアにはわからなかった。どうして彼女がそこまで自分のことを想い、そして『絶対』などという言葉を使うのか。この世に『絶対』はありえないのに。それは彼女だって知ってるはずなのに。それなのに、いとも簡単にそう言ってのける。
「だってユリアは『生きてる』もん。だから元の世界に帰らなきゃ。その方法はきっとあるよ」
ニコリと、りんごは笑ってみせた。その笑みを見て、ユリアも何故だか安心してしまった。
「だからそのためには、まず記憶を取り戻さなきゃね」
記憶がなければ話にならない。記憶とは、帰るための地図の役割を果たす。彼女が元いた世界に帰りたいと思い続けていれば、きっと大丈夫。
けれど、『帰りたい』と思う反面、『ここに留まりたい』という思いも彼女にはあった。この世界には多分、元いた世界にはなかったものがたくさんあるのだと思う。そして何故か、『懐かしい』とも思っていた。あたたかくて、心地良くて、そんな雰囲気があった。
でもやっぱり、自分は帰らなくてはならない。りんごのように、私の帰りを待っててくれてる人がいるのだ。その人がいる限りは、帰らなくてはならなかった。
「うん。私がんばって思い出すよ。りんごと過ごした日々を。だって…もし帰れなかったとしても、忘れたままなのは嫌だもの」
忘れない。もう忘れるわけにはいかない。元の世界での思い出も、この世界での思い出も。
ユリアも覚悟を決めた。りんご程の強さはないかもしれないけれども、しっかりと。