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「フレイム!」
「スプラッシュ!」
歩き始めて程なく、聞き覚えのある声が聞こえた。その声のする方向に素早く近付くと、りんごは木陰へと身を隠した。
「だんだん魔導の使い方上手くなってない!?すごいよ!」
一方はこの前すずらん商店街に来たニット帽の少女、アミティ。元気なんだけども不思議系。
「きっと猛勉強したんだろうね。前よりも魔導のキレがよくなってると思うよ」
もう一方はこの前エコロに操られていたボクっ娘少女、アルル。りんごと同じくらいの歳の子だ。
「あはは、そうかな…実感沸かないなぁ」
そして最後は…りんごの友達、ユリア。
りんごはユリアをジッと見つめる。本当にあれはユリアなのか?もしかしたら、そっくりさんかもしれない。声もユリアに似てるけど、もし別人だったらどうしよう。
しかし、その不安も次の瞬間に打ち砕かれた。
「じゃあ、今日はもう帰ろっか。ユリア」
「うん」
彼女の名前が紡がれると同時に、りんごの中の何かが弾けた。

「ユリア!」

思わず彼女の名を呼ぶ。そして彼女がこちらを振り返るよりも先に抱きついた。
やっと。やっと会えたんだ。強制的な別れからまだ数日しか経ってないのに、それがやけに長く感じてしまっていた。それこそ、永遠のように。
ユリアもりんごの方を向く。驚いたように目をぱちくりさせながら自分を抱いて泣きじゃくる彼女を見ている。
そして、

「…貴方、誰?」

そう、問う。
瞬間、りんごの心臓がドクリと跳ねた。顔から血の気がサッと引いていく。
「…えっ?」
何を問われたのか、理解できなかった。というより、理解したくなかった。
「いや、あの…ごめんね。わからないの。ボケではなくて、その。記憶喪失、っぽい」
途端に顔色を悪くしたりんごを見たユリアは、しまったと思いながらそう弁解する。
それで片付けられたらどんなに楽だろう。記憶喪失?そうか、記憶喪失か。言う方は簡単だが、言われた方のショックは計り知れないだろう。
辺りは森の静寂も相俟って、気まずい空気が流れていた。アミティもアルルもどうしたらいいのかわからず、ただ黙り込む。
「本当に…ごめんなさい。傷付けるつもりなんて、これっぽっちもなかった。私だって嫌だもの、誰かに忘れられちゃうのは」
自分を抱きしめるりんごの腕の力が弱まっていくのを感じたユリアは、力強く彼女を抱きしめ返す。このまま崩れ落ちてしまいそうな存在を支えるかのように。
「でも、貴方は私の名前を呼んでくれたよね?私のこと、忘れないでいてくれたんだよね」
「忘れるわけないよ。だって…あなたは私の大切な友達だから」
自分にも言い聞かせるかのように、りんごは一文字ずつ刻むようにユリアの顔をまっすぐ見つめて言った。
めそめそしてる場合じゃない。彼女が忘れてしまっているのなら、私が思い出させてみせる。
あの日のことも、この日のことも、幼い日のことも、つい最近のことだって。なんだって話すし、彼女を連れ戻すための努力だって惜しまない。
「だから、全部思い出して…一緒に帰ろ?」
その言葉に、ユリアは力強く頷いた。