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「うーん……」
広い図書室に少女の唸り声が響く。その声の主、私。名前はユリア。
授業が終わって放課後、魔導の本をかき集めてはそれを読み、リングノートに書き写す。しかし読み進めれば読み進めるほどに複雑でわかりにくい。やっぱり私はあんまり勉強は得意ではなかった。
「へぇ、こんな難しい本読んでるのかい?」
私の唸り声がうるさかったのか、隣で本を読んでいた少年が見かねて私に声を掛けてきた。
「ああ、キミはこないだ転校してきた人か。魔導の初心者って聞いてたけど…本当に初心者って感じの顔してるよね」
この少年の第一印象をわかりやすく簡潔にまとめるならば、『嫌味っぽい』。
「まっ、この本はキミにはまだ早いかな。ボクならわかるけどね」
そろそろムカつくぞ。しかし見た目からして優等生っぽいし、彼の言ってることには間違いがなかった。その本には古の魔導だとか儀式だとかが書かれていて、とても理解できそうになかった。
私からその本を取り上げると、少年は席を立って魔導書の棚へと歩んでいく。本を戻すのかと思いきや、それを片手に棚をジッと見つめながらうろうろしていた。
やがてようやく本を手にとって席に戻ってくると、それを私に差し出す。
「キミはここから始めた方がいいよ。せいぜいがんばることだね」
思わず受け取ってしまったが、その本の表紙には四色のぷよの絵と共に『やさしいまどう』と書かれていた。なんてベタな題名だろう。
「ユリアー!お待たせ!」
騒がしく図書室に入ってきたのはアミティ。先生との補習が終わったようだ。
「うるさいよ、『図書室では静かに』って先生に言われなかったのかい?」
少年がアミティをたしなめる。しかしアミティは彼を視界に入れると、その返事よりも先に私を守るように彼と向きあう。
「クルーク!…ユリアをいじめたな!?」
「いじめてないよ!」
少年は『クルーク』というらしい。一体何をどうしたらクルークが私をいじめているという事実に結びつくのだろう。確かにさっきは嫌味を言われたけど、あれくらいではいじめには入らないと思う。
「…とにかく、キミがいると読書に集中できないから、早く出て行ってくれないかな」
クルークは咳払いをすると、アミティを追い払う。
私は荷物をまとめると、まだ何か言いたげにしていたアミティを宥めて図書室から出た。

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