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その夜。
お風呂上りに自室へと戻ってくると、今日図書室で借りた魔導の本を開いてみた。そこには今日習った魔導の基礎、基礎魔導、その他諸々。色々書いてあった。
カバンからリングノートを取り出すと、とりあえずそこに書いてあることを書き写してみる。
―イメージ。―集中。―詠唱。
このサイクルで魔導は意味を成す。しかしそれをすれば誰でも使えるわけではない。魔力、素質、才能、知識。多ければ多いほどいい。例えば、今日使った『アーティフィシャル・レイン』。サタンによれば、あれは高位魔導らしい。威力が高く、広範囲に攻撃ができるので、それだけ魔力を消費するのだ。あれを詠唱した後にどっと疲れたのは多分、魔力を大量に消費したからだろう。
とにかく私には知識が圧倒的になかった。これだけは頭に急いで詰め込もうとしたって無理に決まってる。元々私は勉強が得意ではなかった。でも、魔導のことはもっと知りたいと思っていた。それがプラスに繋がってくれれば、きっと……
――ガタッ
「…?」
ふと窓を見た時、何かが外で動いた。恐る恐る近付いて、窓を静かに開けてみる。
「…何もいない?」
そのまま周囲を見渡してみるが、気配も人影も感じられなかった。
鳥がいただけなのかも。
なんとなく不気味ではあったが、気にしていても仕方がないので、今日はもう寝ることにした。

「すごい…すごい子見つけちゃったかも……」
黒い影は再び木陰から出てくると、ユリアの部屋の窓から中を伺った。
「おじさまもすごい人だけど…そのすごいおじさまから魔力をもらったこの子は同じくらいすごいかも…!」
影は笑う。ただただ『すごい』と連呼しながら。


第三話『カクトウカのオジョウサマ』 終

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