―――

「つまり、」
ルルーが去ってしまった後、サタンの話をまとめようとしてみる。
「私には元々魔力はなかったけど、素質や才能はあったと」
魔力がないのにそれの素質と才能があるというのは実に奇妙なことである。それはプラモデルを素人が初見で何も見ずに寸分違わず組み立ててみせるのとほとんど同じではないだろうか。
それはある意味チート的であり、尊敬されると同時に非難も浴びるような才能だった。現に目の前のシグはご機嫌そうにアホ毛をピコピコしてるし、ラフィーナはギリギリと歯ぎしりをしていた。
「でもどうして?使い方なんて、私全然知らなかったのに……」
「だからそれが不思議だと言っているんだ」
アホか、とツッコまれ口を噤む。というか、サタンにアホと言われるなんて……
心底がっかりしながら彼の話に耳を傾ける。
「ユリア、お前魔導に憧れなどはあったか?」
サタンに問われ、『うーん』と首を傾げてみる。
確かにこういう不思議な力への憧れは少なからずあったかもしれない。だが、私には元いた世界の記憶はあまり残っていなかった。何に憧れていたのか、何を目指していたのか、何が好きだったのか、…何のために生きていたのか。
思い出そうとすることすべてが真っ白で、思い出したいのに思い出せなくて、それがあまりにも悔しくて、元いた世界に申し訳なくて。
私の友達は、今頃どうしているのだろう。私の突然の死、しかも他殺紛いな死で、悲しんでいるのだろうか。もし悲しい思いをさせてしまっているのなら、更に申し訳ない。だって私、貴方のことを思い出せないんだもの。
「…無理に思い出さなくてもいい。聞いてみただけだからな」
見兼ねたサタンは、ふぅと溜息をつき咳払いをする。
「えっとー…」
ラフィーナが不意に口を開く。その場にいた全員の視線が自然と彼女の方へと注がれた。
「その、その方の憧れが、魔導の素質や才能に関与していると言いたいんですか?」
その言葉にサタンはコクリと頷いた。
「うむ。あくまで憶測でしかないがな。ユリアは一回死んだことになっている。転生という形でここに来たのなら…その憧れが素質や才能に変わったという可能性はある」
つまり、この世界に対応できるように、元いた世界での思想が力に変わった。
随分とご都合主義だと思う。でも、サタンですら『憶測』という言葉を使うなら、もしかしたら本当にそうなのかもしれないし、また違った理由もあるかもしれない。
「時に、ラフィーナと言ったか?」
サタンがラフィーナへと視線を変える。急に話題に出された彼女は驚いたように目をぱちくりさせながら自分を指差す。
「変わった魔導の使い方をするのだな。体術の運動エネルギーをポーチに溜め込み、魔力に変換させて放出しているのか」
それを聞いたラフィーナは肩をギクリと震わせる。
「ど、どうしてそれを…?」
「私は闇の貴公子だからな。それくらいのことはわかる」
ラフィーナの問いに、サタンは根拠もクソもへったくれもない解答を寄越した。それについての苦情は一切受け付けてないらしく、彼はラフィーナのポーチを興味津々な様子で見つめる。
「さしずめ魔導力増幅装置といったところか。どれ、もう少しよく見せてみろ」
もっと調べてみたくなったのか、そのポーチへと手を伸ばす。が、傍から見れば少女の腰を触ろうとする変態オヤジにしか見えなかった。
「ちょっとおやめなさい、この変態オヤジ!!」
「自重しろサタン!!」
「へんたい」
その場にいた三人の技が変態オヤジ基サタン『さま』に炸裂する。
カラスの代わりにサタンが鳴き、そして泣いた夕暮れだった。