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さっきまでは無理でも、今はできることがあるかもしれない。手をスッと上に挙げながら、私は目を閉じた。
―イメージ。
手を付けられていないなら、今から手を付ければいい。
―集中。
ありったけの魔力を、今ここに。
「女王乱舞!!」
「シエルアーク!!」
二人がまるで磁石に群がる鉄のように素早く近づいてくる。
―詠唱。
今ならきっと、できる!
「アーティフィシャル・レイン!!」
目を開き、強く叫んだ。
瞬間、私とシグを避けルルーとラフィーナの立ち位置に降り注ぐのは、雨。それもただの雨ではない。
「い、痛ッ!!」
「なんなのよっ!?」
当たった瞬間に痛みを伴うほどの強い雨。それはまさしく、高圧水流の如く。
その威力にシグも、ルルーも、ラフィーナも、そして私自身も驚いていた。
手を下げると、彼女たちを苦しめた雨は止んだ。いきなり戦いを申し込まれたのは私達の方なのに、何故か申し訳なく思ってしまった。だってやっぱり、人を傷付けるのは気持ちのいいものじゃない。それになんだか、どっと疲れた。
「どうしてよ…っ、だってあなた、今日転校してきたばかりのはずですわよね!?こんなの聞いてませんわ!!」
傷だらけになったラフィーナは私を指差して抗議を始める。だが、どう宥めたらいいのかわからなかった。私自身もこの力に驚いてしまったのに、どうやって説明したらいいのか……

その答えは、いつのまにか復活していたサタンが出してくれた。
「それは…多分、ユリア自身に魔導の素質や才能が備わっているからだろうな」
彼は私の隣にやってきて、ポンと私の頭に手を置く。
「よもやここまでとは思わなかった。たった数日…たった数日で魔力を自分の身体に馴染ませ、使いこなすことができるようになるとは私も予想外だった」
その言葉に、ルルーがうつむいたままワナワナと肩を震わせる。その仕草に思わずビクリと肩を震わせたが、すぐに状況が違うことに気付いた。あれは……
「お、覚えてらっしゃい!!」
彼女はそんな捨て台詞を言い放つと、風のように走り去っていってしまった。呼び止めようとも思ったが、今の彼女にそれをするのは更に状況を悪化させてしまうような気もした。呼び止めたのがサタンであったら、また違うことになっていたかもしれないが。