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「あ、ユリアだ」
そのままサタンのほっぺをつっついていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「シグ、今帰り?」
「うん」
昨日と同じでやはり言葉数は少ないが、でもなんとなく憎めない。というか、かわいらしい。そこに倒れてる頭の中お花畑のおじさんとは大違いだ。
「そうだ、シグ。今日習った基本のこと復習したいから、付き合ってくれないかな?」
ファイヤー以外にもいくつか魔導を教えてもらったので、早く試してみたくて仕方がなかった。こんな不思議な力を手に入れたのは初めてだし、二次元でしか出来得ないことを、まだ基本だけとはいえできるようになったことがとても嬉しかったのだ。
シグはこくりと頷いて「いいよ」と言ってくれたのだが……

「やっと見つけたわ!」
背後からいきなり大声で怒鳴られてビクリと二人して肩を震わせる。
恐る恐る振り返ってみると、そこには青髪のナイスバディな女性が立っていた。しかもやけにご立腹らしく、吊り上がった目で私をずっと見ている。
私、何かしたのかな……
「!サタンさま!?どうなさいましたの!?」
その女性は私の横でぶっ倒れてるサタンに駆け寄り、抱き起こす。そしてまた私をギロリと睨んだ。
「あなたがやったのね!?」
確かに間違いなくそれは私がやったけど、『はい』と頷くのがこわかった。まるで万引きをした犯人のような心境。女性はサタンをナチュラルにゴッと頭から落とすと(それはいいのか、とツッコみたくなるけどこわくてできない)、私に詰め寄った。こ、これは限りなく死亡フラグが立っている…!
と、そこに…

「あら、シグ発見!」
昇降口からピンク髪の女の子が出てきたかと思えば、ビシッとシグを指差した。
「あ、ラフィーナ」
ピンク髪の少女は『ラフィーナ』というらしい。シグがラフィーナを方を見るのに釣られて私もラフィーナを見ると、彼女の視線は私に詰め寄ってくる女性の方に注がれていた。
「と、ルルーさんではないですか!」
女性―『ルルー』というらしい―もその声に気がついたようで、ラフィーナへと視線が移る。
「あら、ラフィーナ。元気かしら?」
この二人はどうやら顔見知りらしい。何やら二人で談笑し始めるが、死亡フラグは未だ健在。なので、その場からシグを連れてこっそり立ち去ろうとした。が、
「お待ちなさい」
鋭い声と共に腕をがっしりと掴まれる。ギギギギ…と錆びついたロボットのような不自然な動作で顔だけ振り返ると、やはりそこには笑顔だが背後に般若が見えるくらいのオーラを纏ったルルーがいた。しかも掴まれた腕はまるで自分のものではないかのようにピクリとも動かない。
「あなたよね?いきなり現れたかと思えば、サタンさまのお城に住みついてるっていう女は…!!」
腕を掴んでいる手にギリギリと力が加わっていく。このままいくといつか私の腕が折れてしまいそうだ。
現実から目を背けようとラフィーナの方へ視線を移してみると、彼女はシグの方へ視線を向けていた。
「今から新技を試そうかと思うのですが…先生もアミティさんもいらっしゃらないみたいで。代わりにシグ、あなたが相手をなさい」
なんとなくこの二人は似ているな、と思った直後、ルルーがぬっと私に顔を近付けた。
「聞いてますの?とにかく、サタンさまが許しても、この私が許さないわ!」
私もシグもぶるぶると首を横に振る。似たもの同士の二人に追いつめられる私達。絶体絶命。そう思った時、ふとラフィーナがおもむろにこう言ってみせた。
「だったら、ペアで戦えばよろしいわ」
その言葉にルルーもピタ、と動きを止めた。
「それもそうね…私達二人、そして貴方達二人。ちょうどいいわね」
私とシグ抜きでどんどんと話は進んでいく。二人いわく、私のことを制裁できる上、技の磨きもかけられる。おまけに似たもの同士でペアを組めるなんて感激です、らしい。
話し合い的なものが終わったと思えばいきなり二人にギラリと睨まれた。
「さぁ、覚悟はよろしくて?」
正直に言おう。まったく覚悟なんてできてない。


第二話『マドウのツカイカタ』 終

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