―――

まず、自分の使いたい魔導をイメージする。
そのイメージに魔力をプラスして、そして詠唱。イメージとともに押し出す感じで魔力を放出。
文にすると簡単そうだが、これがまた難しい。何故なら、例えばファイヤーを放ったとして…魔力の大きさによってその威力は異なる。目の前の相手を軽く吹っ飛ばす程度のものから、この校舎を燃やし尽くすものまで、術者の込める魔力によるからだ。つまり、その微妙なさじ加減が難しい。唱えることで次の魔導の力を高める呪文もあるようだけど(先日アミティが使ってた『アクセル』もその類らしい)、それは高位呪文だという。
案ずるより産むが易し。早速基本の魔導、ファイヤーを試す。
イメージ。―火の玉をアコール先生にぶつける。
「ファイヤー!」
詠唱。―イメージした火の玉を魔力に乗せて押し出す…!
「…あり?」
シーン……
何も起こらなかった。何がいけなかったんだろう……
うーん、と首を捻っているとアミティとシグが駆け寄ってきた。
「もっとこう、手をビシッと!」
「ビシッと?」
「違うよ、手を上に挙げて」
「こう?」
―いや足を上げるのかな?―上向くのかも。―シェー!―げっつ。―なんでそーなるの!
色々なポーズを取らされたけど、ファイヤーが成功することはなかった。寧ろ、ポーズはどうでもいいのかもしれない。足りないのは多分……
「ポーズではなくて、魔力が上手く使えてないのかもしれませんね」
アコール先生が的を射た答えを出してくれた。魔力なんて今まで使ったこともないので、そうであって当然なんだけど。
「あ、でも…今朝サタンを吹っ飛ばした時に、すっごい力がみなぎる感じがしたかも」
ふと今朝のことを思い出す。そういえば、私はサタンを空の彼方まで吹っ飛ばしてから学校に来たのだ。普通だったらあんな力は出てこないはずなので、あれは多分本当に魔力を利用して吹っ飛ばしたのかもしれない。
「では、その感覚を思い出しながらやってみましょうか」
先生に言われるままに、今朝サタンを吹っ飛ばした時の感覚を思い出してみる。確か、身体の奥底から何かがみなぎってきて…それを手の方に集中させてからサタンに殴りかかった。なら、それを応用すればいいだけだ。
イメージ。―火の玉をアコール先生にぶつける。
集中。―火の玉を出す場所…手のひらにみなぎる魔力を集中させる。
「ファイヤー!」
詠唱。―イメージした火の玉を集中させた魔力に乗せて押し出す!
ボンッ!と火の玉が勢いよく自分の手のひらから発射された。
「よくできました」
それをアコール先生が打ち消す。それと同時に、周りから拍手が聞こえた。なんだか、これだけのことなのに拍手を浴びるのは照れるというか、なんというか。
「すっごいよ!もうマスターできちゃったんだね!」
戸惑っていると、アミティがギュッと抱きついてきた。よっぽど興奮してるのか、そのままピョンピョン跳ねる。照れるし、嬉しいけど、まだマスターしたわけじゃないような気がする。
「あとは練習あるのみですよ、ユリアさん」
そう、練習も必要だ。そして、自分に合った魔導というものもある。
…帰ってからサタンに聞いてみようかな。
素直に教えてくれるかどうかはともかくとして、あの人なら色々知ってそうだし。


4/6