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とりあえずしばらくはサタンの城(別荘らしいが、立派な城が別荘扱いでいいのだろうか)でお世話になることになり、その城へ向かうべく私はサタンのすぐ後ろをついていった。
「あの城はつい最近建てたものでな、本当はアルルとカーバンクルちゃんのために作った城だったんだが…近隣の迷惑になるとかで取り壊し寸前だったのだよ。せっかく吹き荒れる嵐などで雰囲気満点にしておいたのに、あれのどこが気に入らなかったんだ」
何かグチグチと文句を言いながら歩を進める彼だったが、それはどう考えても確実に近隣の迷惑だろ…と心の中でツッコミを入れた。口に出したら睨まれそうで、こわかった。

「えっと…サタン、さん?」
「サタン『さま』だ」
「…サタン、さま?」
「なんだ」
意外とプライドの高い人なのだろうか、それともただの変な人なのだろうか。私は言い直すと一番聞きたかったことを尋ねる。
「どうして、私が運命に逆らったこととか…生まれつき魔力が宿ってることとかを知ってたんですか?」
先程は混乱しててそこまで考える暇がなかったからそう信じてしまった風になってしまったが、今こうして冷静になってみると不可解だった。何故この人はこんなにも私の事情に詳しいのだろうか。もしかして、私の記憶が曖昧なことも知っているのだろうか。私が…死んでしまう前のことも知ってるの?
ドキドキしながら見ていると、彼は突然ピタリと足を止めた。立ち止まってしまうとは思っておらず、そのまま彼の背中にぶつかってしまった。そのことを謝ろうとしたが、彼の口が動く方が早かった。

「あれは嘘だ」

「…へっ?」
…今、なんて言ったのこの人?嘘…?
「壮大だっただろう?」
こちらを振り返って、サタンはニヤリと意地悪く笑った。その笑いに思わずキュンとなる辺り、私もちゃんと女子なのだなと思うより先に私は彼の腕を掴む。
「そうじゃなくて!どうしてそんな嘘…!!」
信じかけていた私もバカだったかもしれない。あの場にいた中で、彼が一番胡散臭い感じだった時点で疑うべきだった。もしかしたらこのまま騙されて拉致監禁も有り得るかもしれない。ああ、なんてバカなんだ。本当にバカだ。
「何も全部嘘とは言っていない。お前が『生きたい』と願ったこと、そして魔力で新たな肉体を得たこと、それらは本当のことだ。魂だけの姿になったお前は天に昇らず、何故かこのプリンプタウンにやってきた」
落ち着け、と言わんばかりにサタンは掴まれてない方の手で私の肩を抑える。
「私は偶然その魂を見つけた。そして興味本位で持ち帰ったのだ。その魂の『生きたい』という願い…私はほんの気まぐれで叶えてやろうと思い、自分自身の魔力を少しだけわけてやった」
するとその魔力を使い、魂は自分の肉体を生成したのだという。けれど成功したことに驚いた魂は、慌てて瞬間移動の魔導を使いその場から消え去ったらしい。
それが、私。

「でも、なんであんな嘘……」
真実を知ったところで、それが『嘘をついた理由』にはならない。その答えは驚く程に安っぽいものだった。
「その方が面白いし、響きもいい。私の魔力を少しとは言え手に入れているのだ、そこそこの魔導は使えるのだからそうであってもおかしくはないはずだぞ?」
そう言ったあと、ツンと私の額を指でつつく。
「だが制御はできていない。これからは私が手取り足取り腰取り教えてやるから覚悟しろ?」
表情こそ頼りになるお兄さんのようだったが、言ってることはとんでもなかった。一気に背筋がゾッと凍る。
このままこの人の下で魔力の使い方の勉強をしていいのか。とんでもなく危険な香りしかしない。
「い、いや、遠慮しておきます」
「遠慮するな。安心しろ、痛くしないように気をつける」
「どういう意味ですかそれ!全然安心できないよ!」
「お前はただ私に身を委ねていれば良いのだ…」
どうしよう、何故かサタンからお花が出てるエフェクトが見える。すごく危険な意味合いにしか聞こえず、私はぶんぶんと首を横に振って抵抗する。
「遠慮しますってば!」
「大丈夫だ、私にかかればあんなことやこんなこともできるように」
「なりたくない!…サタンに習うくらいなら、アミティ達と同じ学校に行って勉強する!!」
「あそこは口のなってないガキばかりだ!!」
「少なくともサタンの授業よりは安全!!」
「『さま』をつけろ、『さま』を〜ッ!!」
ぐりぐりぐり〜っと頭を両拳でぐりぐりされる。痛い、マジ痛い。この人力も強かった。

結局事が済むまでサタンの城に住むということになり(つまり引越しはできない)、その代わりプリンプ魔導学校に通わせてもらえることになった。
これからいろんな意味で波乱万丈な日々が始まること受け合いだった。


第一話『サダメのリンネ』 終

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