――― 「アルルー!見つけたぞー!」 バサッバサッという羽ばたきと共に、デレデレな男の声が聞こえた。 その男はアルルの隣に降り立つが、すぐに目の前にいる私へと視線が移された。 「…なんだ、コイツは?」 男は目を細めながら、私を見る。 「…死霊か?いや、違うな。魂が具現化している…?」 ふむ、と顎に手を当てて、何やら推測している。 この男―アルルは『サタン』と呼んでいた―が言うに、私の元いた世界で、元の肉体は無惨な姿になったらしい。しかし、事もあろうに私の魂は、『生きたい』強くと願った。運命に逆らうかのように反抗した私の魂は、元いた世界を離れてこの世界にやってきた。そして自らの中に眠っていた莫大な魔力で新たな肉体を創り、その中に宿った。結果、二度目の人生を送るような形になってしまったらしい。 サタンはこうも言った。 「死ねばもうその魂が燃えることはない。お前は明らかにイレギュラーな存在だ」 「お前に魔力があるのは、お前自身の先天的な才能故にだ。ただ、それを元の世界で生かしきれないと判断したがために、世に生まれ落ちる直前に自分の中に封印を施す結果となった」 当然、そんなことを覚えているはずがなかった。自分自身が運命に逆らうような真似をしたことも、自分が新たな肉体を望んだことも、そのために自分自身の魔力の封印を解いたことも、何もかも。 そんな無茶苦茶なことを言われて、信じられるはずがなかった。目の前には人間が四人いる。一人は人間ではないのかもしれないけど。だけど、全員たったさっき知りあったばかりで、本当にとても親切だけれど、そうホイホイ信じることなんてできなかった。 だって、『あなたは死んだ』『あなたに魔力が元々宿ってた』『あなたは運命に逆らった』なんてことを言われて、あなたはそれを信じられますか…? 私は…… 「私は…どうしたらいいの…?」 信じられる人が、いない。それがとても悲しくて、寂しく感じてしまって。ぽろぽろと、涙が頬を伝った。それを拭うこともできずに、ただ俯く。 そんな私の右手を、誰かがそっと握ってくれた。 「だいじょうぶ。なんとかなるよ」 シグだった。そのままの顔で彼の方を向くと、おとぼけな感じの瞳はそのままに、やんわりと微笑んでいた。 すると今度は左手を握られる。 「あたしも協力できることがあったら、なんでもするよ!…あんまりよくわかんないけど」 アミティ。彼女はニッコリと微笑むが、すぐに自信なさげに苦笑いする。でもそんなところが、なんとなく彼女らしかった。 「ボクにも手伝わせてよ。帰る方法があるかもしれないし」 アルルはしゃがみ込んでいる私の目線まで自分もしゃがむと、優しく笑ってくれた。 「興味があるな。衣食住くらいは提供してやれるぞ?」 フッと得意気に笑うのはサタン。『私の元へ来い』と遠回しに言われているような気がしないでもないが、ありがたかった。 「あの…ありがとう、みんな……」 この人たちは、優しい。見ず知らずの、どこの馬の骨ともわからない私を受け入れてくれた。普通だったらこうは行かないと思う。かといって、騙されやすいわけでもなさそうだと直感した。それは、明らかに私の元いた世界の人ではないからなのだろう。 アミティとシグの手を借りながら立ち上がる。こんなにもあたたかな感覚は多分、初めてだった。 5/6 ← → |