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「あたしアミティ!プリンプ魔導学校で魔導を習ってるんだ!こっちはクラスメイトのシグ!」
「よろしく」
改めてアミティに名乗られ、そしてシグを紹介してもらった。シグはぺこりと一礼すると、ピコピコとアホ毛を動かす。…そのアホ毛は生きてるのだろうか。
「私は友梨亜です。えっと…ちょっとここのこと、よくわからなくて……」
私も名乗ると、眉間に皺を寄せながら頬をポリポリとかく。本当はここのことばかりでなく、自分の記憶も曖昧になってしまっているのだが、それは敢えて言わないことにした。面倒なことになったら厄介だし。
するとアミティはポンッと両手を合わせながら閃いたような顔をこちらに向ける。
「だったら、アルルに聞いてみる?」
『アルル?』と私が小首を傾げると、彼女はニコニコしながら街の方を指差した。
「うんっ!アルルも遠い異世界から来たんだって。もしかしたら何かわかるかも!」
その『アルル』という人に会えば、何かわかるかもしれない…そう言われてもいまいち実感が沸かなかった。というのも、こういう展開における『何かわかるかも』は大体曖昧にしかわからないからである。
しかしアミティの親切心の手前そんなことを言えるはずもなく、微笑みながら頷くと三人で街にある広場へと向かうことにした。

広場に到着すると、アミティが大きく手を振ってこれまた大きな声でその人物の名を呼んだ。
「おぉーいっ!アールールー!!」
こんな呼び方をされた日には、私はきっと他人のフリをしてやり過ごすだろう。だって恥ずかしすぎる…大きな声で自分の名を呼ばれるなんて。
しかしそんな思いとは裏腹に、ここの住人はそれに対してさほど気に留めないらしい。目的の人物はすぐにこちらに気がつくと、手を振り返しながら駆け寄ってきた。
「やぁ!どうしたの、アミティ?」
この少女が多分、『アルル』。傍らには黄色いうさぎのような、何かのような…そんな感じの生物もいた。
「あのね、この人ここのことよくわからないんだって。もしかしたらアルルと同じ世界の人かなーって思って連れてきたんだけど……」
アミティは私を見ながらアルルに説明する。だが、アルルは私を一目見て首を横に振った。
「ううん、ボクのいた世界の人じゃないみたい。でも……」
アミティの推測をさっぱり切り捨てると、今度はまじまじと私を見る。
「…魔力は感じるね。キミ、一体何者…?」
眉間に皺を寄せながら、彼女は私を見つめてる。
何者なのかと問われても、私は私でしかない。しかし、それよりも気になったのが『魔力』という言葉である。
「魔力…?って、何?」
ファンタジー小説などではよく見かける単語だ。この力を使って、魔法や技を繰り出したりできるアレ。それを私から感じるとアルルは言った。でも、私は極普通の生活を送ってきた極普通の学生のはずだ。

…待て。本当にそう言い切れるのか?自分が『極普通』だと、本当に言い切れるのだろうか。ここに来てから、記憶は曖昧になり、何より私は……
確かに、覚えていた。けたたましい、電車の警笛を。
急にぞわっと背筋が凍った。心臓の音がやけにうるさく聞こえる。身体が小刻みに震える。
あの時、私に何が起こった?
目を逸らしたくなるほどの、惨事。
真っ赤に染まる、視界。
響き渡る、叫び声。

ああ、ああぁぁ……

思い出してしまった。
「どうしたの!?」
足に力が入らなくなり、その場に座り込む。震えが止まらない。思わず自分の肩を抱いた。怖くて怖くて仕方なくて、喋る気にもならなかった。


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