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翌朝目が覚めると、コテージの天井が見えた。
「…やっぱり夢じゃなかったんだ」
ひょっとしたら本当に夢で、目が覚めたら、いつもの見慣れた天井が見えるんじゃないかって思ったりもした。
起き上がって溜息をつくも、それには安堵の意味も込められていたに違いない。
もしここで夢が覚めてしまったら、創くんたちに何も言わずに去っていくことになってしまうんじゃないかと内心少し心配だったのだ。
どうせなら、もう少しだけこの世界にいたい。
そう思いながら辺りを見回すと、いるはずの千秋ちゃんの姿はなかった。どこに行ってしまったんだろう。
とりあえず、床に散乱しているゲーム機を踏まないように洗面所へ移動し、身支度を整える。時計は既にお昼の12時を回っていた。
「ごはん…」
空腹にはやはり勝てず、昨日眼蛇夢くんに連れてこられたレストランへ向かおうと玄関を開けた。
「あ、神楽さん」
扉を開けてすぐそう声を掛けてくれたのは、昨日の…
「…凪斗くん?」
彼は人懐っこい笑みを浮かべながら「おはよう」と挨拶する。それに私も応えるように挨拶を交わした。
「よく眠れた?」
「は、はい、おかげさまで…凪斗くんも今起きたんですか?」
そう問いかけると、凪斗くんは苦笑する。
「まさか。ボクは掃除当番だけど、学級目標の工作に使う素材を集めるために、皆は森や山に行っちゃったよ。朝からね」
ボクも朝から掃除だよ、と彼は笑う。なんてことを聞いてしまったんだろう。これじゃあまるで私が怠け者みたいだ。
「ご、ごめんなさい!私ももっと早く起きていれば、皆さんと同じように行動できたのに…っ」
「気にしなくていいって。神楽さんは昨日色々あって疲れてたでしょ?寧ろ休んでほしいくらいだよ」
ぽんぽん、と慰めるように頭を撫でられた。あたたかくて大きな手で撫でられ、自然と目を細める。
「ボクはホテル周りの掃除担当で、これからレストランへお昼を食べに行くんだ。ちょうどいいし、神楽さんも一緒にどうかなって誘おうと思ってたところなんだけど」
なるほど、だから玄関の前にいたんだ。
昨日は夕ごはんだったから皆一緒にいたけど、昼ごはんも一緒とは限らない。なので、レストランで一人で昼ごはんということも覚悟していた。それだけに、凪斗くんからの誘いはとても嬉しいものだった。
「は、はい、もちろんです!ご一緒させてください!」
「よし、そうこなくっちゃ」
その誘いに頷くと、彼はレストランへと歩き始める。その後ろを追いかけると、彼は歩調を合わせて私の隣に来てくれた。
「それから、敬語はなしね」
「え…?」
急にそう言われ、ぱちくりと目を瞬かせる。
「ボクら仲間なんだしさ、敬語はなしにしようよ。見た感じ、同い年くらいだしさ」
驚いた。まさか彼も千秋ちゃんと同じことを言うなんて。
私はしばらくぱちくりと瞬きをしてから、こくりと頷く。それを見た彼は、フッと優しく微笑むのだった。