「で、話を戻すけど…神楽さんは誰と相部屋になるのかな?」
ちょうど落ち着いてきた頃、凪斗くんが口を開く。
そういえばその話がまだ解決していなかった。多分、女子の中の誰かの部屋と一緒になると思うけど…というか寧ろそうとしか考えられない。
しかし、その考えは早々にぶった切られることになる。
「フン、この俺様と共に生活するに決まっているだろう。なにせ、俺様が召喚した俺様のサーヴァントなのだからな」
またこいつだ。やたらと長いストールを巻いた男子―田中眼蛇夢くんだ。眼蛇夢くんは千秋ちゃんの隣で私達の話を聞いていたらしい。
「ちょ…だからそのサーヴァントって何なんですか?」
「サーヴァントって…確か召使いって意味だよね」
「だからなんで私が眼蛇夢くんの召使いなんですか!」
丁寧に日本語訳してくれた千秋ちゃんに感謝しつつも、眼蛇夢くんに抗議する。だが、彼は「俺様が召喚したからだ」と言って聞かない。
「…まぁ、仕方ないよね。神楽さんもさっき、それを認めちゃったわけだし。多分、その方が楽に事が進むから…なんて考えたんだろうけど、その判断が仇になって返ってきちゃったね」
「うっ…」
凪斗くんの的確な指摘に言葉を詰まらせる。ここで自分のボキャ貧さを呪うことになろうとは。
ぐぬぬ、と唸っていると、ちょうど眼蛇夢くんの真向かいに座っていた先程も色々言葉を投げてきたピンクの髪のツナギの男子―左右田和一くんがダンッとテーブルを叩く。
「オイオイオイ、ちょっと待てや!!普通に考えておかしいだろ、男と女が相部屋って!!それともなんだ?田中ならいいってのか!?オレにもチャンスがあっていいだろ!?」
和一くんはビシリと眼蛇夢くんを指差す。チャンスってなに、チャンスって。どんなチャンスだよ。
「そ、左右田さんも田中さんもずるいです!わたくしも神楽さんと相部屋がいいです!」
眼蛇夢くんの隣に座っていた王女のような気品が溢れる女子―ソニア・ネヴァーマインドちゃんも声を張り上げる。いやいやいや有難いけど何か違う気がするのは気のせいなのかな。
その言い合いは何故か周囲にも伝染していく。
「はぁ?アンタらみたいな変人よりも、わたしといた方が神楽おねぇも安心できるって!」
「はいはーい!琉花ちゃん!唯吹と一緒なら、ロックで刺激的な生活ができちゃうッスよー!」
「テメーらさっきからギャーギャーうっせぇンだよ!!部屋割りくらいさっさと決めやがれってンだ!!」
「皆の者、鎮まらんかああああああッ!!」
「あ、あの……」
「ちょっと、琉花ちゃん困ってるじゃん!一旦落ち着こうよ!」
着物を着た小さな女子―西園寺日寄子ちゃん。
奇抜なヘアスタイルの女子―澪田唯吹ちゃん。
童顔でこれまた小さめな男子―九頭龍冬彦くん。
冬彦くんとは対称的に大きくてガッシリした身体の男子―弐大猫丸くん。
一眼レフのカメラを首から提げた赤毛の女子―小泉真昼ちゃん。
その中の真昼ちゃんがその場を宥めるように立ち上がって声を上げると、言い合いをしていた皆は多分困った表情を浮かべている私に視線を向けてハッとしたように一旦口を噤む。
その頃合いを見計らって、再び凪斗くんが口を開いた。
「実はさ、こんな事もあろうかと、こんなものを用意してみたんだ」
そう言って笑顔で取り出してみせたのは、16本の割り箸。もしかして、くじ引き?一体どんな事があると思って用意したんだろう。
「これのアタリの割り箸を引いた人が、神楽さんと相部屋ってことでどうかな?なんだか神楽さんと相部屋になりたい人が結構いるみたいだしさ」
「ちょっと待て」
今の状況にお誂え向きなその提案を、何故か創くんは片手で制するように待ったをかける。
「なに?日向クン」
「…お前の才能って、確か『超高校級の幸運』だったよな?その条件だと、まさか……」
創くんはジッと確かめるように凪斗くんを見つめる。
『超高校級の幸運』?なんだろうそれは。でも創くんの確かめるような口ぶりからして、多分運がすごくいい…即ち、くじ引きなんてやったら高確率でアタリを引き当ててしまうような、そんな才能なのだろうか。
「…バレた?」
てへ、と笑う凪斗くん。その直後、彼に抗議の声が殺到したのは言うまでもない。