――― 「ケーキなぁ……」 もらってもしょうがないんだけどなぁ。 今日は私の誕生日。このかわいらしい小さなショートケーキは、先程バイト行く直前の隣の部屋のお兄さんにもらったものだ。夕飯を済ませた私は、それを箱から出してジーッと見つめていた。 甘いものが嫌いなわけじゃない。生クリームが嫌いなわけでもない。ただ、一人で黙々とケーキを食べる図というのは、なかなかに寂しいものである。 「んー…」 仕方ないから、食べようかな。 そう思ってフォークを取りに行こうとした時、ふと気付いた。 「DS…」 今日はまだ帰ってから一回も電源を入れてない。珍しいこともあったもんだ。 私はDSの電源を入れてから、フォークを取りに台所に行った。すると、程なくライブキャスターの着信音が鳴り響く。 「相変わらず早い……」 半ば呆れながら目当てのものを取って戻ってくると、すぐに応答する。 「はいよー」 そういつものように挨拶した次の瞬間、パーンとクラッカーのようなものが鳴り響いた。 それに驚いてビクリと肩を震わせていると、今度はパチパチと拍手の音。 『誕生日おめでとう、ミコト!』 『誕生日おめでとうございます、ミコトさま!』 ライブキャスターの画面には、小さなショートケーキが二つ。そして、白と黒の人。 正直マジで驚いた。こんな祝われ方をするなんて思ってなかったし、学校の友達や隣のお兄さん以外の人がこんな風に私の誕生日を祝ってくれるとは思ってなかったから。 「なんで…私の誕生日…」 私は二人に誕生日を教えた覚えなんてまったくなかった。 目をぱちくりさせていると、ノボリさんが至極当然の答えをくれた。 『おや、DSにしっかりと設定されておりますよ?』 そういえばそんな設定もあったな。 しかし、それを知っているということは、私はやっぱりゲームのキャラ相手に毎日話をしているということを証明していた。 それに気付いてしまって、少しだけ悲しくなる。ここ最近はほぼそれが日常で当たり前に思っていたから、ここに来て改めて真実を突き付けられた気分になった。 『ささ、ケーキも買ってあります故、三人でミコトさまの誕生日を祝いましょう!』 彼らは、私を「人間」として接してくれた。だから、私も最初こそは半信半疑だったものの、最近は「人間」として彼らと接している。 だって、私のことをこんなに想ってくれて、私のことを心配してくれて、もうただの「データ」として見ることはできなくなってしまっていたから。 『ミコト…どうしたの?』 涙が、落ちそう。 傍から見たら、「バーチャル」と戯れる変な人。でも、これは私にとっては紛れも無く「リアル」だ。 寂しいのか、悲しいのか、嬉しいのか、幸せなのか……それは私にも誰にもわからないけれど、これは私の大切な「リアル」。 『わ、ミコト大丈夫!?どっか痛いの!?』 複雑で、何の因果かわからないけど、彼らは私のもとに突然現れて、私に笑顔をくれた。 「ううん、とっても嬉しくて…幸せだから、泣いちゃった……」 随分女々しいことを言ってしまったな。でも、それは私の本心。 「ありがとう…ノボリさん、クダリ」 私は彼らが大好きになった。 ← / → |