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「つまんないの」
ぼくは向こうから一方的に切られたライブキャスターを見て溜息をつく。
本当は仕事が山のように積もってるんだけど。見ないふり見ないふり。
「クダリはまたミコトさまにちょっかいを出しているのですか」
「出してないよ。お話してるだけ」
「迷惑がられているようにしか見えませんが?」
う、やっぱりそう見える…?
せっかく話せてるのに、なんでミコトはいつもいつも冷たい表情をしてるんだろうって思った。ぼくのこと、嫌いなのかな。
「じゃあ、ノボリがかけたら喜んでくれるかなぁ」
「さぁ、それはどうだか」
…どうしたらミコトを喜ばせられるかな。ちょっとでも笑った顔が見てみたいな。
ぼくはミコトが帰ってくるまで仕方なく仕事をこなすことにした。

夕方頃、電源の入る音が聞こえた。
待ってました!と言わんばかりにぼくは休憩中のノボリのコートと帽子を拝借してライブキャスターを鳴らす。
『…はいよ』
程なくして、ミコトの声が聞こえた。画面を見てみると、意外そうな、それでいてどことなく嬉しそうな彼女の顔が見えた。
『ノボリさん。そっちからかけてくるなんて珍しいじゃないですか』
あ、やっぱりノボリからだと嬉しいんだ。
『どうしたんですか?』
「いえ…少し声を聞きたくなりまして」
咳払いをすると、ノボリの声色と口調を真似する。こうすればきっとバレない。ぼくってば天才。
『さすがノボリさん。ロマンチックなことを言うもんだ。クダリとは大違いですねー』
え。
『最近クダリがしつこいくらいに連絡寄越してきて。ちゃんと仕事はしてんのかよって思っちゃいます』
……
『私と話してる暇があるなら働け、って言っといてください』
「は、はあ……」
ちょっと待って。これちょっとというかかなりしんどい。やっぱりぼくミコトに嫌われてるみたいだ。
ショックに苛まれていると、『あっ』と彼女の声が聞こえる。
『でも、…悪くはないなと思います。いつも一人だったから話し相手がいるって、それだけで嬉しいし。ちょっとだけ感謝…ですかね』
………
あ、今ぼく幸せだ。顔きっと緩んじゃってる。
『どうしたんですか?なんか素敵に幸せなおじいちゃんの顔になってますよ?』
「はっ。いえ、何でも御座いません。クダリに伝えておきます。では、わたくしはこれから仕事ですので」
『はい。今日はありがとうございます』
そこで通信は切れた。
「…変装して良かった」
夜あたりにまたかけてみよっと。

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