――― 『きみに会いに来ちゃった』 意味がわからないよ。 DSの画面に映ってるのは間違いなくダブルトレインのクレイジーホワイト。基クダリ。なんかアニメーションっぽくぬるぬる動いてやがる。 『でも、しばらく応答なくて寂しかった』 画面の中の奴はシュンとしてる。 オイオイオイ、ちょっと待てよ。これは何の冗談だ?誰が仕組んだイタズラだ?手が込みすぎて、まるで… 「まるで本物みたいじゃない…」 思わず口から出てきてしまった。すると、画面の中の奴はニッコリと満面の笑みを見せる。 『本物みたいって。ぼく、正真正銘クダリだよ』 信じられるわけないじゃない。どうせ誰かのイタズラだ。 『クダリ、誰と話しているのですか?』 『あ、ノボリ。えっとね、ミコト』 『ミコトさま?あのミコトさまですか?』 『うん』 これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。 クレイジーホワイトが私に話しかけてくるわけないじゃないか。だってこれはゲームだよ?ゲームは定められた通りにしか動かないんだよ?ただのデータの塊じゃないか。ありえない。ありえない。 『ミコトさま…?』 そう考えてる間に相手側の画面の人物が変わって、クダリじゃない方の奴が出てきていた。その若干違う声を聞いてビクリと肩を震わせる。 「…!?クレイジーブラック!?」 『クレ…!?』 そのクダリに瓜二つの奴を見て指をさす。瓜二つの奴はそれを聞いてピシッと固まってしまった。後ろの方でクダリが笑ってる声が聞こえる。 『クレ、クレイジーブラックだって!それ最高!』 「いや、元ネタはアンタのクレイジーホワイトだし!?」 『うそーん』 コロコロと表情を変えるクダリ。ちょっと面白い。瓜二つの奴はまだ固まっていた。 『あれっ、ミコトってノボリに会ったことないっけ?クレイジーブラック…は、ノボリだよー』 ぷくく、と溢れ出る笑いを抑えながらクダリは目の前で固まってるクレイジーブラックを紹介してくれた。 『あー、そっか。ぼくが教えたんだもんね、ノボリに』 一方的に教えたのかよ。私はバトルサブウェイはダブルしかやったことないよ。 『…失礼致しました。改めましてこんばんは。わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します』 クレイジーブラック、基ノボリが改めて私に挨拶してくれた。なんだかバカ丁寧だな…クダリとは大違いじゃないか。この人は「さん」をつけた方がいいかもしれない。 って、オイ。ちょっと待て。 なに馴染んじゃってんの!! 思わず和んだ雰囲気になってしまったけど、相手はゲームの中のキャラクターだよ!?いいやいやいや、ありえないでしょ。どうしたっていうの。私が何をしたっていうの。なんでこんなに混乱しなくちゃならんの! どうしよう。 これってゲー○リに渡した方がいいのかな。 でも…なんだか、やっぱり、手放したくない。こんな混乱してるのにこんなことを思うのはおかしいかもしれない。でも、なんだか、すごく…すごく嬉しいというか、何と言うか。 『どうしたの、さっきから黙り込んじゃって』 クダリがライブキャスターのカメラを覗き込んでる。近ぇよ。 「いや…何も。ねぇクダリ」 シッシッと手であしらうと、さっきからずっと気になっていたことを問う。 「どうやってこっちに通信したの?」 普通に考えてありえないことをコイツはやって退けた。かなり気になるところである。 『ん?えっとねー…ヒミツ!』 …だと思ったよ。多分本人にもよくわかってないんだろうな。 『これからよろしくね、ミコト!』 『よろしくお願いいたします、ミコトさま』 …頭痛い。 【続】 戻る ← / → |