―――

「ノボリ!ぼくのプリン食べたでしょ!」
「食べてません」
「食ーべーたー!」
「食べてません」
クダリがしつこい。プリンなんて買えばいくらでも食べられるのですから、たかが一個なくなったところで何の問題があると言うのでしょう。ちなみにクダリのプリンはわたくしの胃の中でもう消化が終わっている頃なので、今更出せだの吐けだの言われても困ってしまいます。
「ほら、電源が入りましたよ」
とりあえずクダリの気を引かせて逃げようと思ったので、クダリが好意を寄せていると思われるミコトさまがDSの電源を入れたと嘘をつくことに致しました。
しかし、それと同時に電源の入る音が致しました。なんということでしょう。嘘から出た真で御座います。すると、クダリはそわそわしながらライブキャスターを探り始めました。
「ライブキャスター…」
どうやら見つからないようです。当前で御座います。クダリのライブキャスターはわたくしが持っていますから。ミコトさまも仰りました、「クダリはちゃんと仕事をしているのか」と。実際クダリは以前よりも仕事をサボリ気味になることが多くなりました。なので、ちょっとお灸を据えてやろうと今朝方わたくしが荷物から抜き取ったので御座います。
『あーちょっと待ってくださいね、今マルチトレイン探してるんで』
本日はマルチトレインにご乗車になるようで。ということは、上手く勝ち進んでくればわたくしとクダリのタッグバトルが実現するわけですね。
『あぁ、待ってるから』
…ん?
『あ、あった。えっと…ワイヤレスってやつですか?』
『そそ』
『足引っ張っちゃったらすみません』
『大丈夫っしょ』

ミコトさまとご一緒に乗車なさるのは一体誰でございましょう?

「どなたかとマルチトレインにご乗車されるようですね。行きますよクダリ」
「いや、ノボリ。気にならないの?」
「何がです?」
「ミコトと一緒にいるの、男の人!」
クダリも気になるようです。
わたくしも、気にならないと言えば嘘になります。しかしながらミコトさまも年頃の女性。彼氏…のような存在がいてもおかしくはありません。
ですが、なんでしょう。この、わたくしの中に溜まっていくドロドロとした黒いものは。
「…誰でも構いません」
そうしている間にも、マルチトレインに挑戦する二人の声は聞こえ続けます。時には悔しがり、時には励まし合い、時には喜ぶ声。お二人はとても仲がよろしいように思いました。
どれくらい立ち尽くしたでしょう。
わたくし達は、ミコトさまとの間にある壁の高さと厚さを痛感したのです。



/