―――

いつも思う。
いっつも思う。
本当に。
「なぬっ、また外れてしまったぁ!?」

なんでいっつもいっつもゲームコーナー行くのに付き合わされるのっ!?

―トバリシティ・ゲームコーナー―

「ぐぬぅ……何故だ、何故なんだあああ……」
受付でコインを買うハンサムを見て私は溜息をつく。
「いつまでやるつもりよ?」
コインケースに50枚のコインを入れる彼に問い掛けてみる。
すると、返ってくる返事は決まってコレである。
「勿論、777が揃うまでだ!」
その返事を聞いて溜息をついた数を数えるのもやめてしまった。
何故彼はスロットをやり続けるのだろう。あんなに下手なのに。
「ブラボー!、いつも付き合わせて悪いな……それに加えて悪いのだが、コイツを見ててくれないか?さすがにボールから出してやらないのは可哀相だからな」
そう言ってハンサムはモンスターボールからグレッグルを出してやる。
そういえば、この人ポケモン持ってたんだっけ……バトルあんまりしない人だからすっかり忘れてた……
そんなことを思いながらグレッグルを抱きかかえると、スロットの方へと戻っていくハンサムを追いかけた。

「ぬぅ……なかなか手強いな……」
隣でコインを3枚クレジットするハンサムを見て、私は溜息をつく。よく飽きずにやれるなぁ……
私の膝に座っているグレッグルはケケケッと笑いながら彼を見ている。
「わ、笑うな!」
ハンサムがグレッグルにそう言うと、グレッグルは大人しくなった。
「………」
私はスロットにコインを三枚クレジットすると、レバーを下に下げる。すると、当然リールが回転し始める。
リールの絵柄を黙々と眺めるとパシパシパシッ、とボタンを押した。
ジャラジャラジャラ……
「……揃った」
「なぬっ!?」
中央には、綺麗に三つ並んだ7の数字。
私は出てきたコインをケースに収める。そのコインを、ハンサムは羨ましそうに眺めていた。
「あ、あげないわよ?」
彼に向かってにこやかに微笑むと、私はケースの蓋を閉めた。
「意外と意地悪だな……」
彼はブツブツと呟くと、再びリールの絵柄とにらめっこを始めた。

―――

<一時間後>

「ぐおおおお……」
「あああああ……」
「ううううう……」
さっきからこんな声しか聞いてない。
そろそろ777が出ても良い頃だと思うんだけど……
「くっ、もう一回だ!」
あぁ、神様。いるんだったら、見てるんだったら彼、ハンサムに夢を見せてあげてください、切実に。
そのたびに私の膝に座っているグレッグルはケケケッと笑う。こいつはこいつで見てて飽きないらしい。
「……ハンサム、いい加減にしてくれない?」
私はリールの絵柄をジッと見つめる彼に呆れた目線を向けながら問い掛ける。
「待て、待つんだ。私はコインを貯めてポケモンのために技マシンを取ってくるのだ。……また外れた」
がっくしとうなだれるハンサム。だがすぐに顔を上げると、再びコインを三枚クレジットしてレバーを下げた。
そんなのデパートで買えば良いじゃない……と言おうとしたが、私はそれをグッと抑えた。
彼はポケモンのためにこんなにも一生懸命になっているのに、それに水を差すようなことを言うのは良くないと思ったからだ。

その時、隣で嬉しそうな声があがった。
「やったぞー!!ついに揃ったー!!!」
「えっ、嘘っ!?」
私はスロットを覗き込む。
確かに7が3つ、中央に綺麗に並んでいる!!
ハンサムは両手を上に挙げるとそのまま背もたれに背中を預けようとした。
が……
「のわあああああああっ!?」
その椅子には背もたれが付いていなかった。
ハンサムの身体は重力に従い床へと直行、そのまま背中をゴンッ!頭をガンッ!と床にぶつけてしまった。
「あっ、ちょっと!大丈夫!?」
私は椅子から立ち上がるとグレッグルを椅子に座らせて、ハンサムに手を差し出す。
周りの人も「おいおい、大丈夫かよ……」「え、マジありえないんですけど……」とか呟きながらこちらを見ている。中には笑っている人もいた。
しばらくしてハンサムは頭をさすりながら起き上がる。
「いたたたたた……はははっ、失敗失敗、だな」
彼は苦笑いをしながら私を見る。
その姿を見て、思わず吹き出してしまった。
「あ、何を笑っている!」
「いや、だって……ぷくくくっ、傑作だったわ、ホントに!!あっはっはっはっは!!最高最高っ!」
ついに腹を抱えて笑い出す。それに釣られたのか、グレッグルも笑い始めた。「わ、笑うな!まったく……!!」
ハンサムは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら私の手を掴んで立ち上がる。
「あっはっは……ねぇ、大丈夫?背中とか頭とか」
「なんとかな……」
私は笑った時に出た涙を指で拭いながら彼の背中をさすってやる。

こんなに笑ったのは、いつ振りだろう。
思えば、ハンサムのやらかすこと全部が新鮮で、面白かった。
一緒にいて退屈しないし、面白くて楽しくて……
だけどね、まだ言ってやらないわよ。
「いつも傍にいてくれてありがとう」なんてね。
もっともっと楽しい事、たくさんしてほしいわ。そして、もっともっと私をこうやって笑わせてほしい。

だから、もっともっと私を貴方の傍に置いといてほしいな。

「欲張りかな」
「何が?」
出てきたコインをケースに入れる彼は、私を不思議そうに見た。
「ううん、こっちの話」
私は首を横に振って適当に誤魔化した。


END.

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