日焼け止めを塗る庵。捏造八神妹が登場します
「微睡み」「気怠い朝」と合わせてpixivに載せました






 静かな教室に蝉の声が嫌に煩く響く。するり、するり、白い手が滑らかに肌を撫でてゆくのを、京はぼんやりと眺めていた。放課後の教室は扇風機すら回されず、文化部たちはそれぞれ部室を冷やすために急いで出て行った。運動部は既に外で声を出しており、この暑いのによくやるなぁ、と窓の下を覗いた。ジーワジーワ、耳鳴りのように纏わり付く音に顔をしかめ、直ぐに窓から離れる。
「まだ塗り終わんねぇの」
「貴様に必要なのは忍耐力だな」
「へーへー、まだなんだな」
 誰の席かも分からない机に乗り上げて脚を揺らす。するり、手が項を撫で、頬を撫でてゆく。斜め後ろから見た横顔は端正なもので、右手が通った後の伏せられた瞼を縁取る睫毛がやけに美しく見えて、ふと視線を逸らした。
このまま庵が日焼け止めを塗り終われば、共に帰路に就いて家の前で別れて「また明日」で終わりだ。何だか勿体なく感じてしまったところでふと思い出す。
「お前ん家ってさ、今日親いないんだろ」
 庵の視線がちらりとこちらを向いた。既に京が言い出すことを察している様子だった。
「…何故知っている」
「ん〜、たまたま」
 これは本当だ。明らか日帰りでは無い量の荷物を車に積んでいるのを見かけただけ。
「家に転がり込もうとしているのなら無駄だ。妹がいるからな」
「あぁ、それならさっき…」
「あ、いた!」
 男二人の、暑さに茹だった教室に凛と少女の声が響いた。
「な…、ここは高等部の、」
「今日友達ん家に泊まるから!留守番よろしく」
「、おい!」
 困惑する兄をそのままに、言うだけ言ってさっさと出て行こうとした少女は、京に目を留めた。
「あ、京さん。兄をよろしくお願いします」
 それじゃ、と今度こそ去って行ってしまう。嵐のような勢いに圧されて、暫く二人揃って言葉を発することを忘れる。ジーワジーワ、忘れかけていた蝉の声が再び気になり始めてから、京は口を開いた。
「な、そういうことだから」
 はぁ、と重たい溜息。カチリと日焼け止めの蓋が閉められ、漸く庵が鞄を手に取った。もう一度、そっと窓の外を見る。雲の白の眩しさが目に痛くて、目を細めた。
「置いて行くぞ」
 既に教室を出て廊下に立っている庵を振り返り、京も鞄を持った。


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